自分軸の本質的でナラティブな消費やナラティブな妄想を現実化することで新しい価値を生み出す時代がきているのではないでしょうか?今回は「ナラティブ」とアート思考について考えています。
モノの時代からコトの時代へ
昭和の頃、三種の神器と呼ばれるほど大衆が求めたものが洗濯機、テレビ、冷蔵後です。1980年に100%普及するまではモノの時代と言って良いでしょう。モノの時代はとにかく合理的に生産性を高めて、物を作れば売れた時代です。
とりあえずモノが普及した後に「私の欲しいモノ」というユーザーのニーズが付加価値となって、これが商品の差別化を生み出します。デザイン思考の時代がやってきます。例えば、2人暮らしの私にサイズの冷蔵庫や、スタイリッシュな薄型TVなど、モノ+ユーザーのニーズに合わせて様々な商品のバリエーションも増えてきます。ユーザーの生活やニーズ、つまりモノ+コトの消費が起きます。人が求める商品のバリエーションはモノの飽和を生み出します。その最たるものが携帯電話でしょう。シーズンごとに縦にスライドする、横に開く、音が良い、カメラの性能が良い、ワンセグが観れる、カラーバリエーション、、、などユーザーニーズを盛り込んで異常な種類の携帯がリリースされました。
そして、多くのモノは100円ショップで手に入り、どこでもなんでも安く手軽に手に入る物質的に豊かな時代になりました。こうなると商品やサービスの差別化要素であったデザインがコモデティー化する状況に至ります。モノの飽和で市場価値が低下して競争力が無くなる。これがデザインの限界です。
山口周氏曰く「物質的不足の解消」され成熟した高原社会です。さらにコロナウィルスがやってきます。日常が大きく変わる中で、人々は今までの労働や消費に疑問を抱き始めたのではないでしょうか?
自分軸の「問い」
不確実な時代に、さらにコロナウィルスが社会を大きく変えていく中で、日々の生活や仕事、消費、そして自らの生き方や価値観、社会課題を内省する時間が増えてきました。働き方や買い物、外食、よく考える時間と、自分で自分を律する行動も求められます。今まで主体的に購入していたものは実は企業の売らんが為の販促に乗っていただけではないか?ものを作って売ること、モノを買って捨てること資本主義自体への疑念。。。本当に必要なモノやコトを考えたときに自分を軸にした世界の捉え方をする必要が出てきました。そこに”本質的消費”の概念が生まれ始めている様に思います。
アート思考とナラティブ
デザイン思考との対比で捉えると分かりやすいと思います。消費者のニーズに応える外的要因(作られた物語)としてのデザイン思考に対し、アーティストは自分軸で内的に物語を発想します。つまり、自分なりの「問い」から、自分を起点にした物語や作品を生み出しています。この物語こそナラティブであると認識しています。
ナラティブについて「ナラティブカンパニー」の著者本田哲也氏はナラティブを「物語的な共創構造」といっています。
ナラティブと物語の3つの違い
1、「演者」:自分自身(生活者)が主人公である。
2、「時間」:常に現在進行形であり、未来を包括する。
3、「舞台」:社会起点であるため社会全体が舞台となる。
その物語では主人公が自分であり、社会課題の中心で自分も含めた未来の物語が展開されていくからです。社会課題と向き合う中で未来を思う自分から生まれる物語を今まで以上に妄想する時間が生まれてきました。「シン ニホン」の著者安宅和人氏はAIとビッグデータが制する時代に乗り遅れた日本人がこれから重要視すべきは妄想力だと言っています。妄想=想像力はまさに自分軸から生まれる物語です。アート思考が何を生み出すか、それはこの未来に対するナラティブな妄想力であると言えます。同時にアートは人を巻き込み「共体験」を生みだします。ライブでのグルーブ感(一体感)や絵画と対話するとき「共感」を超えた「共体験」を生み出すモノ、それがナラティブです。自分の外にあるはずの物語にインクルーシブされる、自分自身が物語の主人公になる体験といっても良いでしょう。
ナラティブは個人だけでなく企業が集うにも求められています。本田氏はこの「共体験」について”企業はこうした共体験のマルチ化にいかに対応できるか、特定のターゲットに向けて共体験をいかにデザインできるがが問われる”といいます。企業自体も自分軸で生み出す現在進行形の物語に基づいたパーパス<存在意義>を発信していく時代であるということです。
内発的物語(妄想)が生み出す価値
今までは企業が作った物語に憧れて消費が発生してきました。または、誰かが作った物語の主人公に憧れて物語に浸っていました。ところが、今となっては自分が主人公の物語をいくらでも作ることができます。それが一過性のものであってもSNSのヒーローやヒロインになることだって可能です。つまり、自分が主人公の妄想がリアルな物語になりうる時代でもあります。
これからは社会の並列化によって社会課題がそれぞれの人の内発的な現実となり、消費の主体が自分自身に変化していくでしょう。その背景にはモノの飽和やコロナ禍により、全ての人が傍観者ではいられなくなった背景もあります。
自分軸の本質的でナラティブな消費やナラティブな妄想を現実化することで新しい価値を生み出す時代がきているのではないでしょうか?
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柴田”shiba”雄一郎
1966年生まれ、日本大学芸術学部 演劇学科卒業。
アート×デザイン思考講師/ トヨタ自動車から内閣府まで新規事業開発専門のフリーエージェントを経て公益代理店 一般社団法人i-baを設立。熊本大学「地方創生とSDGs」/京都芸術大学「縄文からAIまでのアート思考」非常勤講師。地域デザイン学会 参与。FreedomSunset@江ノ島主催。DJ/トランペッター。逗子アートフェスティバル2017・2020プロデューサー。