第9回 アートとデザインについて、どう人に伝えようか

生活をささえ家族を守るためにお金を稼ぐことに力を集中してきた現代の日本は、マーケティングが実社会の中の軸になっている。その状況でアートを語ろうとしても、アートはブラックボックスの中にあり、現実味のない高コストの趣味の一つと捉えられたきたように思える。
そんな中で、先端をいくビジネスパーソンたちがこぞってアートを学ぶことがトレンドになってきていることに対し、元々アートを生業としている人たちが戸惑っている記事やコメントを目にすることが多くなってきた。

アートが実生活の中に浸透しているという実感はまったくないが、一部のビジネス界の中でアートに注目が集まっていることは実感ができる。
しかし、それはかなり先端をいくビジネスパーソンのみで、仕事をしている人全般にアートが浸透しているとは思えない。
まだまだアートという言葉はふわふわしていて会議の席で「アート」という言葉が出ると、それは何を意味するものなのか、どんな価値を持つものなのかは、個人の判断と個人の経験によることが多くなってしまう。
クリエイティブという言葉も同類である。

日常的にアートやクリエイティブという言葉を使用している業界もあるが、そこで言われているアートやクリエイティブという意味は一般的なそれとは異なる。
特にアートは、かなり属人的であり、その人の経験や環境でアートが意味するものが異なっていると考えた方が良い。
それだけアートは日本人の中では、まだまだ消化し切れていない言葉であり、これから先も生活に浸透するまでは時間がかかるだろう。
その分、アートを理解していることがアドバンテージを築くこととなり、アートについて語ることが利益をもたらす可能性がある。
ここには注意を払っていかないといけない。

A Long Chrysalis, the Color of Blood (1889) by Odilon Redon. Original from the National Gallery of Art. Digitally enhanced by rawpixel.

こうしてアートについてコラムを書いていても、アートが指す意味を断定することは不可能としか思えないが、アートが属人的である以上、アートについて考察し、自分自身の中のアートを探求しようとする人を一人でも多く輩出することが、アート思考を広めていくことが貢献できる可能性がある。
個人的にはそこに希望を持っている。

わたし自身のデザイン業は、クリエイター同士のぶつかり合い、もしくはクリエイティブディレクターからの強烈な指示のもとで表層の形を作っていく過程というよりも、中小企業や地方自治体などの、造形教育とは無縁だった方達の、頭の中を表出させる手伝いがほとんどだった。
現在も、そのような依頼が多い。
そこで感じたのは、ほとんどのクライアントは、表出している画像や造形物が人にどのような影響を与えているかにまったく興味がないことと、造形に対しては自分で責任を取ろうとしないことであった。
簡単に言うならば、造形に対しては丸投げと言うことである。
丸投げの場合、判断する担当者や経営者の不明確な好みにより、こちらが提出した造形を判断されることになり、100や200のパターンを提出しても「何か違う」ということで却下されることもある。
その時に強烈に感じたことが、ビジネスをやる以上、ビジネスパーソンには、デザイン教育が必要だということだった。
デザイン教育まではいかないが、デザインすることへの関心を高めるだけでも効果があると思い、デザインをわかりやすくビジネスパーソンに説明することを心がけて来た。
その成果もあり、フライヤー1枚についてデザイナーの知見がどう詰まっているかの説明が出来るようになった。

しかし、アートの説明は難しい。
自分自身もアーティストではないし、造形作家でもない。
アートとデザインは表裏一体であり、お互いに補完するものであると言う経験から、アートについて考察している。
これも視座の話だが、視座を低くすれば違いは顕著で造形にたいする理論や表出のさせ方も異なると思う。
しかし視座を高くすれば、造形をするきっかけになるモチベーション自体は異なるが、造形に対する取り組みは同じだ。
アートは動機が内発的であり、造形した後の直接的な効果はわかりづらい。
デザインの動機は外発的である場合が多いが、そこから内発的な動機に移行していかないと優れた造形を造り上げるモテベーションにはつながらない。

アートがスゴいものであると多くの人が語れば語るほど、アートに拒否感を覚える人も増えるだろう。
そしてデザインもビジネスに必要だと言えば言うほど、デザインへ対する期待感が高まり、実際にデザイン思考に取り組んだ際の失望感について書かれたものを様々なところで見かける。

基本的にアート思考もデザイン思考も、フレームワークにすることはかなり難しい。しかし、そのフレームワークからアートやデザインへの障壁がなくなり、生活やビジネスの中に浸透していくきっかけになれば良いと思う。
このまとまりのないコラムも、アート思考の一貫と思い、自分自身で納得しようかと思う。

※この記事は代表幹事の浅井由剛が執筆したNOTEの記事を転載したものです。
NOTEの記事はこちら

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