昨年末に柴田雄一郎さんのブログ「これでいいのだ!」で「創造性(妄想力)のワークショップ」について書かれていた内容を受けて、妄想力で作り出した事業案をどうやって実現させるかについて、私が職場でやっていることをご紹介します。
柴田さんのブログに、「ゴリラを自殺の名所に連れていき檻に入れておくと、自殺者が減少する」という案が出てきたお話がありました。
例えば、選んだ顔がゴリラで、場所が自殺の名所だったとした場合、私は受講者にこんな質問をします。
「あなたはなぜゴリラと一緒に自殺の名所に行ったのですか?」ここからが妄想物語の始まりです。受講者はゴリラと自殺の名所に関する知っている事を総動員して、その要素を結び付けデタラメなストーリーを語り始めます。
受講生は、
「ゴリラを自殺の名所に連れて行きの檻に入れておくと、自殺者が減少した」というのです。では、なぜ自殺者が減少したのですか?と質問すると。
アート思考研究会 Shiba’s Column これでいいのだ!「創造性(妄想力)のワークショップ」より
「自殺をしに来た人がのんびりとバナナを貪るゴリラを見ていると自殺するのがバカらしくなって自殺者が減少した」というのです。
ゴリラと自殺の名所。一見、全く関連性のないものを結びつけて、それを物語化することで新たな物語が生まれたことになります。
では、これを実際にビジネス化できるでしょうか?
実は、以前、柴田さんと対談しているときに子の話が出てきたのですが、私はその場でゴリラにいくらのコストがかかり、それを上回る売上は作れるか?というのを考えていました。
対談中の数字は仮置きだったので、対談終了後すぐに調べてみると以下のようなことが分かりました。
コスト: ゴリラの取得費用、飼育施設の設置費用、ランニングコスト
- ゴリラの取得コスト: 輸入手続き等を含め、1頭1憶くらい
繁殖が非常に難しいらしいので、雄雌輸入して繁殖という手も使えなさそうなので、輸入に頼るしかありません - 飼育施設の設置費用: 約2000万
- ランニングコスト: 250万円ほどの餌代などを含み約3000万ほどかかるそう
- 飼育員のコスト: 800万円くらい(社会保険料込)
3年で黒字化を考えると、年間4000~5000万円の売上は欲しいところです。
では、売上になりそうなものは何か?
どのくらい自殺関連でのコストがかかっているかで、そのお金と同等のものはフィーとしてとれると仮定してみましょう。
世界ランキングのNO1の青木ヶ原樹海では、年間自殺者数は50人ほどです。個の人たちにどのくらいのコストがかかっているのでしょうか?
海での捜索は無料ですが、山岳捜索は、山岳会などのボランティアも出動し、民間ヘリも出動するケースが多いので1週間で約500万程度のお金がかかります。公の機関が動いている1週間の人件費を考えると、警察庁予算と都道府県を合算しざっくり3兆5000億くらいですが、その中で自殺者にかけている割合でいくとすごく少ないでしょうから、投資効果が見込めず、公に機関から4000万円規模の予算をひいてくる算段が難しそうです。
柴田さんの書かれていた「人型異動情報端末モバイルガール」のように、企業スポンサーがつかないと難しそうです。
では、もっと安くやる方法はないか?
ゴリラよりも安い動物で、同じくらい怖い動物と言えば……
ライオンです。
ライオンは1頭50万円くらい、上物が2000万円くらいで、餌代(年50-60万円)を含めた維持費が800万円ほどで、ゴリラよりもずっと安いです。
では、ライオンでやることを考えながら、もっといい方法がないか考えてみましょう!
動物は生き物でメンテナンスが大変だし、万が一病気等で死んでしまったら投資がかかるので、もっといい方法はないでしょうか?
たとえば、ポケモンゴーのレアキャラを不定期に自殺の名所に出してみるのはどうでしょうか?
売上のほうですが、自治体を含む公的機関の捜索の人件費だけでなく、ACの予算もあるので、そちらも引いてくるならば、年2000万くらいだったらなんとかなるのではないでしょうか??
……こうして、いろいろなゴリラを出発点に、どうやったら事業化できる方法を考えていくのです。
私は、すべての思いつき案件を、上で紹介したようにback of the envelopeでビジネスモデルを書き、試算をしてみます。
これをやるメリットは、くだらないって思われるようなものでも、「こういうやり方したらコスト下げられない?」とか「こういうやり方したら予算ひいてこれるよね?」などと、思わぬ意見も出てきて、「おぉ?できるかも??じゃぁ、ちゃんと資料作って、ちょっとプロジェクトを回してみよっか」となるからです。
経験的にそれができるケースは年数パーセントしかないのですが、こうすることで、メンバーが「思いつきでアイディア出してもいい」と思うようになるからです。加えて、ロジックも鍛えられます。
議論の過程で、「やっぱりこれはうちの会社のビジョンに合わないからやめよう」となったり、「どう考えてももっといい案が出ないから、しばらく寝かせておこう」となることもあります。それでも、言い出した人が納得しているならば、それでいいのです。時間の無駄ではありません。
妄想から事業を生み出す秘訣は、ありえないと思うような案でも、「できない!」という前に、ビジネスモデルを書いてみて、できないならなぜできないのか、どうやったらできるのか、代替案を考えてみることです。
戦略・事業開発コンサルタント、声楽家、アート思考研究会代表幹事
イリノイ大学在学中に、世界初のウェブブラウザ―であるNCSA Mosaicプロジェクトに参加後、世界初の音楽ダウンロードサービスやインターネット映画広告サービス等の数多くの新規事業を立ち上げ、インターネット・エンジニアのキャリアを重ねる。ボストン・コンサルティング・グループの戦略コンサルタント、GE Internationalの戦略・事業開発本部長、日本IBMの事業開発部長を歴任。2012年に独立し、戦略・事業開発コンサルティングを行う会社Leonessaを設立。明治大学サービス創新研究所客員研究員。声楽家としても活躍し、TV朝日「題名のない音楽会」では「奇跡のハイヴォイス」と評される。国際芸術連盟専門家会員。
子どもの不登校をきっかけに、大学で心理学を学び、認定心理士、不登校支援カウンセラー、上級心理カウンセラー、Therapeutic Art Life Coachなどを取得、心のレジリエンスとアート思考の融合を模索中。
著書
- 『ミリオネーゼの仕事術【入門】』
- 『自由に働くための仕事のルール』
- 『自由に働くための出世のルール』
- 『考えながら走る』など多数。