【「コンヴィヴァリティのための道具」(イヴァン・イリイチ著)】

過剰な成長は分極化と分裂を推進し、人を官僚制と機械の奴隷にしてしまう。回避する術としてイリイチは創造的で自立した”自立共生社会”を提唱します。そのためには道具(AIや機械的な自動化)を目的にしないこと、支配されない事だと唱えます。セルジュ・ラトゥーシュの著書「脱成長」や斎藤 幸平の「人新世の「資本論」」のルーツの様な本です。
脱成長論系の本の中では表現が難しいので、入門編としては「脱成長」(セルジュ・ラトゥーシュ著)の方を、まずはお勧めします。「コンヴィヴァリティのための道具」と「脱成長」に共通するのは行きすぎた資本主義に対しイリイチは「節制ある楽しみ」と表現しラトゥーシュは「節度ある豊かな社会」と表現しています。

イリイチは唱える自立共生的な社会は
・他者から操作されることの最も少ない道具。
・全ての成員に最大限に自立的な行動を許す。
・創造的である程度に応じて、単なる娯楽とは正反対のよろこびを感得する。
ここでの道具とはハードウェアや機械だけを指すことではなく教育、健康、知識も道具であるという。
つまりここには芸術も含まれると解釈できます。

そして、ラトゥーシュは「脱成長」の為には世界を「再魔術化」することを提案しています。再魔術化とは、まさにアートの事で、あらゆるアーティストは有用性のないモノ、無償のもの、夢の世界をうみだし「内在的超越」へと誘導する。「脱成長」は生きるためのアートであり、世界と調和して生きるためにアートと共に生きることを推奨しています。

私はアート思考を端的に「創造性」と表現することがありますが、それは経済成長を推進する要素としのイノベーションを指すと同時に、「節度ある豊かな社会=脱成長」への手段としてのイノベーションも意味しています。この二項対立構造への回答をアート思考で導きたいと思っています。

今、今週末のチームラボで開催するZ世代に向けたアート思考の講義内容を考えているところです。
社会構造に疑問を感じている、もしくは目覚めてしまった若い20代前半の友達が増えてきました。社会人になればそんな事考える余裕はなくなり、目先の作業をして1日が終わる。「やらされること」「やらなければいけないこと」に埋め尽くされ、いつしか社会への疑問も薄れていきます。ピカソは「子供は皆芸術家だ、問題は大人になっても芸術家でいられるかどうかだ」といっています。大人になると言うことは外発的な要因(義務・評価・報酬)などによって生かされる時間が増えると言うことだと思います。小手先のSDGsやDXの前に未来の社会を「節制ある楽しみ」や「節度ある豊かな社会」にするための思考法としてアート思考が活かせるのではないかと思っています。

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