旅路に果てがあるのはいい。しかし結局、大切なのは、旅そのものなのだ。

先日、幼稚園児の娘のピアノの発表会がありました。

生まれて初めてのピアノの発表会に本人はドキドキ。

間違えたらどうしよう。やっぱり絶対に自信のある曲にする。

そういって、演目を発表会2か月前に変更しました。

当日は、ミスタッチもありましたが、堂々と弾き、無事に発表会を終えました。

娘からミスタッチをしてしまったし、自分が思っていたように、ありさんと象さんを弾き分けて表現することができなかったと、発表会の後、泣きながら言われた時に、私は娘に次のように言いました。

「ママはあなたなりにとっても頑張ったと思っている。だからこの発表会は成功だったと思う。

あなたがこの2か月間、曲のテーマを考え、楽譜と相談しながら、どこをどういう風に表現してお客様に伝えようと練習してきたかを知っている。

たぶん、あなたは、会場のあまりの広さにドキドキして、考えていたことが全部吹っ飛んじゃったんだろうね。

いろいろと忘れてしまっても、堂々と元気いっぱいに弾き終わらせようとしたことが、会場にいるママのところに伝わってきたよ。

必ずしも自分が演奏したいように演奏できたわけではないかもしれない。でも、目的地にたどり着くことも大事だけれど、その間にしてきていることの方が大事なんだよ」

このように話ながら、ル=グウィンの次の言葉を思い出していたのでした。

旅路に果てがあるのはいい。
しかし結局、大切なのは、旅そのものなのだ。

アーシュラ・クローバー・ル=グウィン

娘はとてもマイナーな曲を演奏したので、ほとんどの人がその曲を初めて聞くため、彼女がミスタッチをしても、堂々として弾き続けていたので、誰も気づかなかったと思います。

現に夫はミスタッチをしたことを気づきませんでした。

後で義母に録画を見せてもきっと気づかないレベルでしょう。

娘にそう伝えると、「パパ、私間違えたの気づいた?」と確認していました。

「分からなかった」と言われて、ちょっとホッとした顔をしていました。

娘には、昔、私がショパンの生誕記念コンサートで、たくさんのメディアが会場にいるのを舞台袖から見て、緊張のあまり歌詞が頭から吹っ飛び、舞台上で歌詞を捏造して歌った話もしました。舞台終了後、私は号泣しながら先生に電話をして、恥ずかしすぎるミスの話をしたところ、先生が笑いながら、先生もパリの舞台で歌詞が頭から飛んで、捏造したけど、誰も気づかなかった話をしてくれました。翌日の新聞には、情緒豊かな表現で、ショパンの想いが現代に伝わった云々と書かれており、先生から「ね、言った通りでしょ」と言われました。また、会場にきていたポーランド人の方からは、素晴らしい歌曲だったと声をかけられ、すごく不思議な気分になりました。後日、レッスンの際に、先生にその話をすると、先生からこう言われたのです。

「あなたはショパンが乗り移ったと思うほど、何カ月もこの歌曲に命を捧げて練習してきました。たとえ、緊張のあまり歌詞を忘れたとしても、ショパンだったらどうこの曲のこの部分に言葉をのせるか。息をするようにわかっていたはずです。今から録音を聞き直しましょう。意味が大きくずれているわけではないとあなたはきっとわかりますよ。本番でパーフェクトに歌えれるのが最もいいかもしれないけれど、もしかしたら、ショパンが作った以上にあなたが捏造したショパンの歌曲はいいものになっているかもしれません。それが命を捧げて曲を練習した結果なのです。」

そして、録音を聞いてみると(怖くてそれまで効けなかった)、自分が思っていたほど歌詞は間違っておらず、捏造したと思っていたのは自分だけだったのです。(確かに捏造した部分はいくらかありましたが・・・)

誰にでも目的地はあると思います。

しかし、どれだけ一生懸命にその道を行くのか。

行きながら学ぶものも多く、そして、それが目的地と思っていたところ以外についたとしても、それでいい。

そうこの時に私は学んだのでした。

同じようなことを娘もこの発表会を通じて学んでいるといいな・・・と思います。

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