第25回 今だからクリエイティブクラスを考える

クリエイティブと町づくりを徒然と…。

日本を海外に売り込むという政策を掲げていた経産省のクール・ジャパン質を設立したのが2010年。
その後、官民ファンドとして海外需要開拓支援機構を立ち上がったのが、2013年である。

この「クール・ジャパン」はイギリスの国家ブランド戦略「クール・ブリタニア」を参考にしたネーミングで、日本の文化的資産を海外に発信するものであった。

後述する三島デザイン塾の開催をするにあたり、クリエイティブシティについての知見をいただいた三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポートによると「クール・ブリタニア」は1997年、当時まだ44歳のトニー・ブレアが首相になった時に、「かっこいいイギリス」を世界的に印象づけるための政策のこととある。

余談だが、この「クール・ブリタニア」(Cool Britannia)を「クール・ブリタニカ」(Cool Britanica)と誤用していることが、日本を中心にかなり多いと指摘している。
国会議員の間でも「クール・ブリタニカ」が普通に流通していたそうだ。

青春時代を80年代に過ごした年代の者からすれば、この様な政策を立てずとも、イギリスはカルチャーのリーダーであり、ファッションでも音楽でも、デザインでも一番優れた国と思っていた。
そして90年代も引き続き、ロックバンドのスーパースターを創出していく。

このイギリスの「クール・ブリタニア」と、それを参考とした「クール・ジャパン」を比べてしまうと、その差を感じられずにはいられないが、日本のカルチャーを商品化しようとした意気込みは感じられる。

「クール・ジャパン」を閣議決定したのは菅直人首相の時である。
しかし、その次の年に東日本大震災が起こり、日本のは、混沌とした混迷の中に入ってしまった様な数年間を過ごすことになるが、その様な状態でも地道にクール・ジャパン政策は遂行されていった。

クール・ジャパン政策で、注目を集めたのが「KAWAII」をテーマとしたガールズファッションや日本のアニメやそれに付随する関連産業のフィギュアなどが海外で人気を博していった。
また、和食やゲーム、漫画など、現代の一般的な日本の社会に浸透しているカルチャーが新たに見直されていった。

その海外に売り込まれていったファッションやアニメなどが、何かを新しい価値を創り出す産業として、それを総称し、クリエイティブ産業と言ったことから、クリエイティブが低迷する日本の産業の救世主になるような雰囲気を醸し出していく。
そして、ちょうど同じ頃にユネスコが2004年に制定した創造都市ネットワークの構想が一般化し、日本の地方都市の政策にも反映されるようになったいた。

その創造都市をクリエイティブシティと呼ぶ。

クリエイティブシティとは、チャールズ・ランドリーの提唱する
「芸術や文化及びクリエイティブ・インダストリーとまちづくりの一体化を志向する、 ヨーロッパを中心に盛んに唱えられている新しい都市創造の概念。」のことである。

創造都市ネットワーク日本のホームページには、クリエイティブシティについは以下の様に説明している。
「創造都市(Creative City)とは、グローバリゼーションと知識情報経済化が急速に進展した21世紀初頭にふさわしい都市のあり方の一つであり、文化芸術と産業経済との創造性に富んだ都市です。

産業空洞化と地域の荒廃に悩む欧米の都市では、1985年に始まる「欧州文化首都」事業など「芸術文化の創造性を活かした都市再生の試み」が成功を収めて以来、世界中で多数の都市において行政、芸術家や文化団体、企業、大学、住民などの連携のもとに進められています。」

創造都市とは|創造都市とは|Creative City Network of Japan 創造都市ネットワーク日本ccn-j.net

その創造都市(クリエイティブシティ)を世界的につないでいく構想が創造都市ネットワークである。
2015年当時は、札幌(メディアアート)・鶴岡(食文化)・金沢(工芸)・浜松(工芸)・名古屋(デザイン)・篠山(工芸)・神戸(デザイン)の7都市が認定を受けていた。

クリエイティブシティという文化創造都市は、大きな産業がなくても、その地域の特性を活かすことで、その町をブランド化できると期待をされたように思う。
日本の地方の市町は、ブランド化することにより知名度を上げ、好感度を上げることで関係人口を作り、最終的には移住してもらうことを目的とする。

このクリエイティブという言葉にのった形で、各市町のゆるキャラが作られ、シティプロモーションのPR動画が作られていった。

そして、そこにリチャード・フロリダの著作「クリエイティブ資本論」が日本で出版され、先進的な知識層が、「クリエイティブ」が落ち込んでいった日本を元気付け産業を活性化させると思わせる雰囲気を作っていった。

筆者である私も、この頃に、静岡県三島市がクリエイティブシティを表明したいとのことで、その一環として、地元のクリエイターと地元の企業をマッチングさせて新しいアイデアを創出する「デザイン塾」なるものを開催させていただいた。

デザインラダーというモデルがある。


The Design Ladder: Four steps of design use
Companies’ use of design may take on a variety of forms. Thedanskdesigncenter.dk

これによると、デザインを活用を4つのステップに分けて成熟度を分類する。
ステップ1:デザイン未使用
ステップ2:造形としてのデザイン
ステップ3:プロセスとしてのデザイン
ステップ4:戦略としてのデザイン

日本の地方都市のほとんどがそうであるが、三島市の産業はステップ1もしくはステップ2である。

また、日本のクリエイターのほとんどは、関東圏に居住しており、中でも様々な企業からの依頼を受けることが出来る法人、もしくはフリーランスのデザイン事務所やデザイナーは東京近郊に集中しいてる。

クリエイターに仕事を発注する企業のほとんどは、大都市に集中しており、地方に住むクリエイターは、住居こそ地方都市であるが、仕事は大都市の企業から依頼されているケースが多く、地元企業からの受注はそれほど多くはないのが実情である。

その状況を改善するために、地元の企業とクリエイターをマッチングし、企業とクリエイターが組んで、デザインラダーのステップ1、ステップ2から、ステップ3とステップ4を目指す企業の創出が目的であった。

以上のように、今から数年前は、東京オリンピックへのわずかな期待感と、クリエイティブという曖昧な何かが、疲弊する日本に、特に地方都市へ恩恵をもたらす様な雰囲気があり、それを感じ取った感度の高い首長や、行政がそれを取り入れていった。

その頃に比べると、5年経った2020年の今は、「クリエティブ」という言葉自体に期待させる要素は少なくなった様に思う。
むしろ冷静にクリエイティブという言葉を捉えている様だ。

ここでもう一度、冷静になったところで、地方都市におけるクリエイティブクラスの存在と、その効果を考えてみても良いかもしれないと思うのだった。

※この記事は代表幹事の浅井由剛が執筆したNOTEの記事を転載したものです。
NOTEの記事はこちら

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