第26回 創造とアート(与謝野晶子の言葉から)

婦人公論から

1919年の婦人公論の記事に、女性の参政権に関する与謝野晶子の投稿がある。
婦人公論のホームページにアーカイブされているその記事の中に、創造に関する思いを述べた部分がある。
少し長いが引用する。

創造は過去と現在とを材料としながら新しい未来を発明する能力です。この能力は個人のものです。個性的のものです。多数は之を助長し、併せて之を受容し、之と同化する作用はあっても、或(ある)一つの新しい文化内容を創造すると云うことは、厳格なる意味に於て全く不可能なことだと思われます。
人格の中心となるものは実にこの創造能力を推さねばなりません。若(も)し之を欠くならば、人は模倣同化の消極的生活にのみ終始して、自我の生存を主張する理由が薄弱になります。この創造能力を用いて、自存、自労、自活、自営の生活を建設してこそ初めて堅実な積極的の文化生活者と称することが出来ると思います。

100年前、女に選挙権はなかった ~与謝野晶子「婦人も選挙権を要求す」|話題|婦人公論.jp今では当たり前になった男女平等の選挙権ですが、女性にその権利が認められるまでには長い道のりがありました。1919(大正8)fujinkoron.jp

アート思考研究会では、イノベーティブな未来を作るためには、過去の知識の研究(探求)と、現在の社会の観察(洞察)と、自分自身の深堀り(自省)を使うことで、未来を創り出す(構想)ことができると主張している。
まさにこれと同じことを100年前にすでに言い表してる。

100年前の日本については想像の域を出ることはなく、体感として理解していることは少ないと思うが、50歳前後の人ならば、明治生まれの祖父母も珍しくはなかったので、雰囲気を掴むことはできるかもしれない。

筆者の私の祖父母は大正生まれだったので、明治生まれとは異なると思うが、祖父母の言動から推測するに、何か大きな枠組み(日本)の中にすっぽりと収まっていて、その枠組みの中で生活をすることで、質素ながら平和な生活を手に入れることが出来ると思っていたようである。

そこからはみ出ることはなかった。
祖父母の同世代の親類や、同世代の近所の方々の言動を思い出しても、枠組みから逸脱する行為はほとんどなかった。
戦争で肉親を失った方々も多くいたのだが、日本という枠組みを恨むような事を聞いた覚えは一切なかった。

そこから推測するに、与謝野晶子が婦人参政権を主張した当時、女性に参政権がないことを疑問に思うこともなかったのだろう。

100年前から変わらず、常識に対し疑問を持ち、自らの意見を主張しするだけでも、生活においてはかなりのリスクを追うことになる。
しかし、様々な方法で、常識に疑問を持ち、問題提起として自らの意見を主張することがアートであるならば、与謝野晶子の上記の言葉は、「創造」という言葉を「アート」に置き換えるだけで、アート思考を表現しているように思うのである。

創造>アート

何かを作り出していくことを創造と言うならば、日本も相当数のものを創り出し、世に送り出している。

この場合の創造も、過去の先人たちの知見を研究し、現在の情勢や動向を洞察することで、未来に必要とされるプロダクトやサービスを作りだすことは可能である。

製品づくりには、過去の様々な知見の研究は絶対であり、収益を得るためのマーケティングは必要不可欠である。
これはアート思考における探求と洞察を十分におこなうことで、ある程度のモノやサービスを創り出すことは可能である。
特別に「自分」というものがなくてもモノやサービスを創り出すことはできるということである。

何かを創り出すことを創造というならば、アートは大きくは創造のなかに含まれるであろう。
創造とアートの差は、アートと名がつくからには、与謝野晶子の言う、「自存、自労、自活、自営の生活」の意識が必要であるということである。

自存、自労、自活、自営とはすなわち、自分自身の深掘り、自省ということである。
自分と向き合い、自分の感情や存在意義、自分の価値観を明確に理解する行為、自省がアートには必要であり、だからこそアートは個人なのであり、個人の能力なのである。
しかしアート思考というと、自分の感情面や、自分の主義主張のことのみを指すことが多い。
自分自身の感情面だけでなく、探求や洞察もなければアートとして成立することは決してない。

そして、自省をするにも、過去の知識の研究(探求)と、現在の社会の観察(洞察)は必要なのである。
自らが思い考え、感じていることを言語化するには、上記の探求と洞察は不可欠なのである。

アートやデザインにおいては模倣がもっとも避けたい行為であるが、模倣も大きな意味で創造に含まれる様にも思っている。
模倣し、それを世に送り出す行為にも知見と情熱が必要だからである。
日本においては、この模倣が生活の基本を成している様に思える。

与謝野晶子の言うように、そろそろそこから抜け出し、もう一度、自存、自労、自活、自営について考えていき、そこからモノやサービスを生み出していきたいと思う。

※この記事は代表幹事の浅井由剛が執筆したNOTEの記事を転載したものです。
NOTEの記事はこちら

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