心の感覚の磨き方(5)「3つの質問」に答えていくと、自分の心の動きが見えてくる

この10年で欧米のビジネス・リーダーは、EI(Emotional Intelligence=心の知能指数)を積極的に学ぶようになってきています。EIとは、簡単に言えば、他者や自分の感情を理解して、自身の感情を適切にコントロールする能力のことです。

EIが優れている人は、感情に流されず自分自身を冷静に見て分析する習慣ができており、また他者の心の動きにも敏感で意味のない摩擦を起こすことが少ないので、ビジネスだけでなく、私生活においても、納得のいく人生を送ることができると言われています。

EIには、4つの領域と12の特性があり、そのなかでも重要な1つとして「感情の自己認識」というものがあります。では、実際にグローバル企業のトップマネジメントに携わっている人たちは、自分の感情とどうやって向き合い、冷静で客観的な自己認識を得ているのでしょうか。

日記を書くことで自分を発見する

私がGEで働いていた時に、エグゼクティブ・コーチから教えてもらった手法の1つに「ジャーナリング」というものがあります。これは文字通り、ジャーナル(日記)を書くことです。「自分はなぜそう感じるのか」を文字にすることで、自分と対話し、何が問題かを客観視し、新たな自分を発見するのです。

自分の感情と向き合うにはいろいろな方法がありますが、ジャーナリングは、自分で考えてみる自己完結型なので、忙しいリーダーに向いています。近年、グーグル社などで瞑想やマインドフルネスなどが取り入れられていますが、そこでも似たような方法が使われているようです。

やり方はとても簡単です。まず紙とペンを用意します。紙はどんなものでもいいですが、1日だけでなく、1週間、1カ月と自分の気持ちの動きを見ていくには、ノートよりも日記帳がおすすめです。持ち運ぶ利便性なども含め、ライフスタイルにあった、使いやすく続けやすいサイズのものを見つけるのも大切です。

紙とペンを前に、1人になれる場所を確保したら、自分に3つの質問をします。

1. 何があったか?
2. それによって、自らの情動にどのような変化があったか?
3. ここから自分について何がわかるか?

それぞれの質問に、1分間、思いつくままのことをどんどん書いていきます。ただし、書けないなら、書かなくてもいいです。私も最初はほとんど書けませんでした。

しかし、なぜ書けないのかを考えているうちに、大きな出来事があっても、出来事そのものに捉われて、自分や周囲がどう感じているのかに注意を払っていなかったことに気づきました。そして、しばらくジャーナリングを続けていくと、すいすい書けるようになっていきました。

質問に対する答えを書き出した後、今度はその内容を読み返してみます。そして、自分がどう感じているのか、5分ほど時間をかけて自分の心に耳を傾けてください。何も感じないときもあります。そのときは、「今は何も感じない」でいいのです。感じても感じなくても、自分の心に向き合う時間をつくることが、自分の心を知る近道です。

こうして、ある出来事に対して自分の情動がどうかわったのか、自分自身についてわかったことがあるかを書き留め、1日全体を振り返ります。さらに、1週間、1カ月の単位で、書き記された自分の情動を追っていきます。そこから、自分の感情や行動がどのように仕事に影響を及ぼしたのか。その中に自分にとってマイナスとなっている思考習慣はあるかを探っていきます。

仕事への向き合い方も変えられる

ジャーナリングを続けると、自分に必要なスキルも見えてきます。例えば、私は自分の不快だと思う気持ちを抑え過ぎて、仕事に熱が入らないことがあるということが、ジャーナリングを通してわかってきました。

下ネタを連発するチームメンバーとの仕事に身が入らない。だから、いい結果が出ない。でも、それは仕事の内容がイヤなのではなく、相手の行動がイヤだったということを理解したときに、不愉快な発言をされたとしてもスルーするとか、頭の中で相手の言葉を他の単語に置き換えることができるようになりました。

そして、仕事のモチベーションを、一緒に仕事をする人に求めるのではなく、その結果ハッピーになる人たちがいるという顧客の顔を思い浮かべる方向にシフトすることで、仕事への向き合い方を変えることができました。

人は、自分で認識している自分と、自分に対する他人の認識が異なっていることも多いものです。もし、コーチがそばに付いているならば、コーチにジャーナリングの記録を見せて、自分の感情についてディスカッションをしてみるのもいいでしょう。すると他者の目に映っている自分の姿が見えてきます。これは正しい自己評価をするためにとても重要です。

自分の心と向き合うジャーナリング、まずは今日あったことを書いてみることから始めてみてはいかがでしょう。

※この記事は代表幹事の秋山ゆかりが執筆したForbes Japanの記事を転載したものです。

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