ベルリンと渋谷という2つの都市の対比からアート思考とデザイン思考をからめて都市経済と幸福度について考察しようという試みの4回目。同時期のベルリンと渋谷を比較してみます。
テクノ>>>ラブパレード
ベルリンを代表するアーティスト「クラフトワーク」は欧米のロック、フォーク、ソウルミュージックなどに対し独自性を持った今までとは違った音楽のスタイルを確立します。それまでの人間中心の音楽を「半分人間」というコンセプトの元、テクノロジーと融合する人間と機械の関係をテーマに音楽はあくまでそのコンセプトを表現する手段であるという位置付けで、人間中心から機械との融合、音楽主体から手段もしくは手法としてコンピューターミュージックを取り入れました。>>>【アート×デザイン思考と都市文化】⑴テクノとベルリン
ベルリンの壁が崩壊した頃、60年代後半のヒッピー・ムーブメント「サマー・オブ・ラブ」に由来する「セカンド・サマー・オブ・ラブ」のムーブメントがイギリスで盛り上がり始めます。スペインのIBIZA島で生まれたバレアリック(ジャンルを超えた選曲)なDJスタイルと相まって広がりを見せます。>>>【アート×デザイン思考と都市文化】⑵ラブパレード
1989年、「セカンド・サマー・オブ・ラブ」の広がりからベルリンで「ラブパレード」がスタートします。画一化された商業的な音楽産業に対するオルタナティブな音楽ムーブメントとして非商業的なDIYによるイベントが、10年で150万人の世界最大級の屋外イベントに成長します。ここで爆音で流されるのがクラフトワークに端を発するテクノミュージックでした。ただ踊ることを目的にコンピュータで作られた無機質で単調なビートに乗って老若男女が踊りまくります。イベントは主催者の意に反して肥大化し、最終的に21人の死者を出す大惨事が起き幕を閉じます。>>>
ここまでが、テクノの発生から世界最大の屋外イベント「ラブパレード」へのざっくりとした流れです。
渋谷系
同じ頃、渋谷では「渋谷系」というムーブメントが起きていました。
>>>【アート×デザイン思考と都市文化】⑶渋谷系】
輸入レコード店の店員が新しい音楽を紹介し、ジャンルを超えた音楽が毎晩プレイされるクラブが上陸し様々な音楽を吸収していく中で日本にも自主制作の音楽ムーブメントが確立します。「タワーレコード」と「HMV」を中心に日本は世界第2位の音楽市場規模となり、91年には4000億円規模となっていました。パルコ、西武などカルチャー系の百貨店とタワーレコードとHMVなど外資系レコードショップの進出とバブル資本の元で音楽、ファッション、映画が一部のアーティストや店員、バイヤーによってキュレーションされた多様性とこだわりが渋谷系の背景にあったと思います。この時期に吸収した音楽が現在のJ-pop土壌となっているといっても間違いではないでしょう。元は音楽好きが集まって自主制作で作られていた音楽もバブル期の巨大な資本に飲まれてファッションの一部となっていきます。様々な音楽を吸収したのはいいのですが、そこに独自性や主体性まで生まれたかというと、「なんとなくおしゃれ、、」とか「◯◯っぽい」アーティストはいても世界的な独自性を持った音楽は渋谷系からは生まれていません。渋谷系から世界にアーティストが輩出されたかというと、結果的には独自性という意味でYMO以降で世界的なアーティストは輩出されておらず(YMO自体渋谷系とは関係ない)音楽ではベビーメタル(これもkawaii×メタルで渋谷系の文脈にはいない)くらいでしょうか。ムーブメントとしては島国の中のさらなる島で起きた文明開花といった感じでしょうか。
ここで、ベルリンと渋谷を比較してみましょう。
ベルリン 渋谷
・独自性(インディペンデント)・・・・・・西洋音楽の模倣
・DIY・・・・・・・・・・・・・・・・・・作られた流行
・非商業主義・・・・・・・・・・・・・・・商業音楽
ここからは私見ですが、
独自性をもってユニークな音楽を生み出し、商業的な流れに対抗しDIYでイベントを作り上げたベルリンに対しバブル経済の発展に乗っかる形で様々な音楽やファッションを吸収した渋谷。この2つの都市が30年後の現在、文化的に何を残したのかというとベルリンが生んだテクノとレイブカルチャーはアンダーグラウンドのまま世界に分散しテクノは世界中のクラブでプレイされています。ただし、商業的な成功が一部のレコード会社に集まるものでもなく、その経済効果という点においてはスケールしているとは言いづらいところです。
渋谷系はどうなったかというと、オリンピックで久しぶりに小山田圭吾(元フリッパーズギター)の不名誉な名前を聞いたくらいで世界的なカルチャーという点では原宿のkawaiiと秋葉のアニメの方が優勢で、インタビューでエリさんが語った様に独自性や自主性のないものは結果的に文化になり得ないということかもしれないと感じました。地域と音楽、あるいはカルチャーという点においては、文化的背景、経済、国民性あらゆる要素が背景となって生まれるもので、それが持続的に地域経済に貢献するわけだではないということだと思います。150万人集客した「ラブパレード」も、世界2位の音楽経済の中心となった渋谷も文化的側面においては一過性のもので直接的な経済効果を継続的に期待できるものではない。といったことでしょうか。
つづく
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柴田”shiba”雄一郎
1966年生まれ、日本大学芸術学部 演劇学科卒業。
アート×デザイン思考講師/ トヨタ自動車から内閣府まで新規事業開発専門のフリーエージェントを経て公益代理店 一般社団法人i-baを設立。熊本大学「地方創生とSDGs」/京都芸術大学「縄文からAIまでのアート思考」非常勤講師。地域デザイン学会 参与。FreedomSunset@江ノ島主催。DJ/トランペッター。逗子アートフェスティバル2017・2020プロデューサー。