先行研究を探すには、論文をあたるのが最適なのだが、日本語だけでなく、英文の論文が読めれば情報ソースが広がるだろうといつも思っている。
英文の論文を読む際は、自分の英文読解能力の低さを嘆きつつも、翻訳ソフトの精度が高くなってくれて本当に感謝である。
これで少しは読むことができるようになった。
アート思考とデザイン思考は、日本においては前号でも書いたように、一般的にはまだまだ認知されていない。
同業のデザインに携わっている人々のSNSの投稿や、記事を読んでいると、創造プロセスを解説したり、そのプロセスを解析することは、そこまで価値が高いように思われていないことは理解できる。
デザイナーが出版している本の内容のほとんどは、「僕」または「私」のデザインやり方や、ものの見方が書いてあるものがほとんどである。
それを読むと参考にはなるのだが、限られた才能と運の持ち主の独善的な発想と仕事のやり方をなぞるのみである。
クリエイティブなプロセスを体系化し、誰もが創造性のある活動ができるきっかけを作れるような出版物はまだ少ないようである。
それは、日本だけの話ではなく、海外でも同じ状況のようだ。
アート思考・デザイン思考については、明確な定義がある訳ではなく、出版物ごとに定義や内容が変わることが指摘されている。
クリエイターの創造プロセスも、人ぞれぞれであり、体系化できるものではないという捉え方が一般的のようである。
そんな中で、こんなことを書いてある論文をみつけた。
Jessica Jacobs
Columbia College Chicago
Intersections in Design Thinking and Art Thinking: Towards Interdisciplinary Innovation
Vol. 5, Issue 1, 2018
Finally, by systematizing the problem-solving approach of “art thinking”, we can possibly shift the focus from the creative person/personality to the process itself. Therefore, creativity and innovation can (and should) be taught to many people, not cultivated exclusively in the gifted minority. Creativity is a skill that can be developed, practiced, and improved upon over time. (Jacobs, J. Intersections in Design Thinking and Art Thinking: Towards Interdisciplinary Innovation P21)
最後に、「アート思考」の問題解決アプローチを体系化することにより、創造性のある人/パーソナリティから、プロセス自体に焦点を移すことができます。そうすれば、クリエイティビティとイノベーションは、才能のある数少ない人間だけでなく、多くの人々に教えることができます(教えるべきです)。創造性とは、時間をかけて開発、実践、改善できるスキルなのです。
これはまさに、自分が目指しているものと同じことである。
私自身は、デザインするという行為は、デザイナーだけのものではなく、一般に広めることが大事であり、そのプロセスを使って多くの人が面白いものを創り出すことが出来ると思っている。
そのためにデザインと社会の接合点を作ることを使命と思っている。
また、アーティストとデザイナーの創作活動において共通点が多いことを、この論文は指摘している。
デザイン思考の中にアート思考を入れることで、デザイナーはさらに革新的な発想ができると述べている。
そこに入れるアート思考は、ファインアート系の認知的戦略とマインドセットを理解することで、創造力をさらに強化できる可能性を示している。
ファインアート系のマインドセットとは、
・experimental :実験的である
・tolerant of ambiguity :あいまいさを許容する
・optimistic :楽観的
・future-oriented :未来志向
であるという。
創造的な活動であっても、目標値を決めて、それを解決する様な方法では問題を解決するのみで、新しい価値を生み出すまでにはいかないということだ。
アーティストは失敗を覚悟で、新しい何かを実験する。
失敗を繰り返し、自分が認識している内面的な問題を明確化したり、そのスタイルを確立していく。
このフェーズを経ないことには、新しいものは生まれてこないということだ。
その思考の主な項目は以下のようになる。
・metacognition:メタ認知
・resource banks:リソースバンク(アーティストの情報収集力)
・prolonged research:長期的なリサーチ(徹底的に調べる)
・problem-creation:問題生成(内面的問題の自己生成)
・generators and constraints :ジェネレーターと制約(制約をつけることで創造する)
・conversation with the work:作品と会話する(アーティストは自分の作品と対話をする)
・closure delay:終了を遅らせる(初期のアイデアを変更してまでも良いものを作る)
・reflection and thematic coherence. 反射と主題の一貫性(内部と外部の2つのメタ認知を使い分ける)
この論文は上記の項目についての解説と言っていいだろう。
アート思考をひとつひとつ紐解いて、丁寧にプロセスをつないでいくのには、もう少し時間がかかるかと思うが、言語や生まれた環境によって、アーティストの思考プロセスが異なるかどうかも気になるところである。
最後にデザインとアートの違いを表現した文の引用。
アーティストの内面思考の能力の高さを示したもの。
Therefore, design will always inevitably be guided by rational thought and evaluation that is relevant to the real-world.
デザインは現実世界の問題を解決することを目的としていますが、アートは主に自発的であり、内面的思考の表現に集中しています。
気になった方は、ぜひ読んでいただきたい。
https://content.sciendo.com/view/journals/ctra/5/1/article-p4.xml?rskey=FumT3q&result=1
※この記事は代表幹事の浅井由剛が執筆したNOTEの記事を転載したものです。
NOTEの記事はこちら
静岡県沼津市生まれ
武蔵美術大学 空間演出デザイン卒業
大学卒業後、3年間、世界各地で働きながらバックパッカー生活を送る。
放浪中に、多様な価値観に触れ、本格的にデザインの世界に入るきっかけとなる。
2008年株式会社カラーコード設立。
デザイン制作をするかたわら、ふつうの人のためのデザイン講座、企業研修の講師を務める。
現在は、京都芸術大学准教授として教鞭ととりつつ、アート思考を活かしたデザインコンサルティングをおこなう。