Your Life as Art 自分の人生を創り出すレッスン

明治大学でアート思考の研究を始めて5年半。

その間、数多くのアート思考に関する本や論文を読んできました。

2018年以降、アート思考に関する本が数多く出版されてきましたが、ふわっとした概念的な内容の本が多い中、「人生をアートのように創り出す」をテーマに構造思考をベースに書かれているこの本は、「これぞアート思考の本だ!!」と、大きな感動が沸き起こりました。

読み終わった直後に、翻訳を手掛けた田村洋一さんを紹介してもらうべく、友人に連絡したところ、翌朝ご紹介をしてもらえて、9月にアート思考研究会にご登壇いただくというお話に発展。

そして、翻訳元の出版社の方ともお目にかかれて(ソーシャル・ディスタンス中なのでzoomではありましたが)、「感動が共鳴するとこんなにも早く物事が進むのだ!」と震えました。

そして、この本を、アート思考に興味を持っているすべての人に

そんな熱い気持ちでこの書評を書きます。

残念ながら、この本は、アート思考を学びたい初心者向けの内容ではありません。

どちらかというと、自分がどうしたいのかというのをある程度持っている、中級・上級者向けの本だと思います。

この本を読んだからとて、1回で理解できるわけでもなく、そして、アート思考がすぐに身につくわけでもありません。

簡単にアーティストのような思考プロセスで「自分自身の人生をアートのように創り出す」ことができないからです。

ここに出てくるワークをきちんとやり、自分自身に向き合い、そして、著者のロバート・フリッツ氏が行っているワークショップに参加したり、この本を繰り返し繰り返し読んだり、考えたりして自分の生活に根付くまでやり続けるしかないものです。

自分自身の人生をアートのように創り出すための手順、姿勢、そして精神を学ぶことができます。

自分の人生をアートとして見る。そう、本書のタイトルにある通りだ。アーティストがアートを創り出すように、あなたは自分の人生を創り出すことができる。 自分の人生をそうやって捉えられるようになると、世界は一変する。人生を構築するプロセスにもっと主体的に関わるようになる。本当に創り出したいことをもっと創り出せる。人生経験の質を拡大することができる。 「こんな人生にしたい」と思うことを、ちょうどアーティストが「こんな作品にしたい」と思うように心に抱く。そして、実際にそういう人生を生み出すときに、画家が絵画を描き出すような戦術を用いて実行できる。そして画家が自作品を壁に飾って味わうように、生み出した人生を実際に生きることができるのだ。 別の言い方をするなら、あなたは人生という演目を創り出すとき、脚本家になり、主演俳優になり、そして同時に上演作品の観客にもなれるのである。 人生が作品であるなら、あなた自身がその作者になれる。アーティスト、作家、脚本家、映画監督、作曲家にとってそうであるように、創造プロセスをあなたの人生の基本習慣にすることができる。――イントロダクションより

目次
日本の読者のみなさんへ
イントロダクション
第1部 人生のキャンバス
第2部 人生を創り出す
第3部 構造の刷り込み
第4部 アートが動き出す
訳者あとがき

アーティストの思考プロセスで人生を創り出

この本はとても論理的に構成されており、第1部の「人生のキャンバス」では創造プロセスの基本として、手順、姿勢、精神の3つによって人生を構築するプロセスを説明しています。第2部の「人生を創り出す」では、創造プロセスをどのように構造化するかが解説されています。第3章の「構造の刷り込み」では、本当に大切な前進や構造の強化を可能とするための課題について議論されています。最後の第4章「アートが動き出す」では創造プロセスを拡大し、学びや健康を作り出すことまで広げられ、人間関係のダイナミックスにまで言及してくれています。人生全体が創造的なプロセスとなることを、著者は数多くの事例とともに示してくれていて、このプロセスを通じて、自分が作り出したい未来が作れるのだと、確信が持てるだけでなく、具体的なプロセスに沿ってやっていけばいいという道しるべを用意してくれています。

この濃い中身をすべて紹介することはできませんが、私がこの本で特に心に残ったことの1つをご紹介します。

自分の内側を探しても、幸せは見つからない

アート思考の本の多くでは、自分の内面を掘っていくことを勧めているものが多いのですが、アート思考研究会の代表幹事の浅井さんも私も、内面の部分だけでは、アート思考は足りないと常に言っています。

自分の外側にある「何か」にもいろいろとあるが、自分の内側にある何かが幸せにしてくれるという考え方もある。(中略)正しい欲望を見つけようとするアプローチは、人生をアートとして創り出すためには誤ったアプローチだ。そんなものは見つからない。(中略)「正しい欲望」などは自分の外側にも内側にも存在しない。

『Your Life as Art 自分の人生を創り出すレッスン』 pp.80-81

フリッツ氏は、自身の事例をはじめ、さまざまな事例を紹介ながら、「創造プロセスはインスピレーションに頼るものではない」ということを繰り返し伝えてくれています。自分の内側に答えがあるかもしれないと、いろいろなプログラムに手を出し、答えを探し求め、セミナージプシーになっている人たちの顔が思い浮かび、彼らにぜひともこの本を読んで気づいてもらいたいと思うのです。

では、どうしたらいいのでしょうか。

フリッツ氏は、創造の練習を始めるときには、「小さく考えること」を勧めています。そして、「気づきのレベルを上げていく」ことも推奨しています。

具体的な方法については本書に譲りますが、この本に書かれているのは、極めて実践的なアプローチです。

長期的な視点を持って、自分の人生をアーティストのように作り上げていくことで、自分自身との関係、他者との関係、コミュニティとの関係など自分の人生すべての関係に影響を及ぼし、自分の創作物-アート作品―としての自分の人生を主体的に作り上げていくことが可能となります。

それが、フリッツ氏の言う、「一切悔いのない人生を生きられる」のです。

冒頭でも書きましたが、1回読めばすぐに自分の人生に適用できるものだとは思いません。

私はノートとペンを片手に、この本から問われることを書き出し、考えながら読み進めましたが、まだまだ何度も読み返し、機会があればセミナーやワークショップにも参加して、さらに学び、自分の人生に応用してみたいと思います。

最後に、ロバート・フリッツ氏から直接学べるセミナーをご紹介します。

2020年8月26日に行われる出版記念オンラインセミナーをはじめ、9月4日~6日「Your Life as Art」10月1日~4日「創り出す思考」の3つが予定されているそうです。

また、9月26日には、この本の翻訳者の田村さんをお招きして、アート思考研究会で研究会を行います。

ご興味のある方は是非ウェブサイトのほうをご確認ください。

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