研究会幹事さんからの再びのお声がけ。
目に飛び込んでくる副題「来るべきバカのために」に♡をわしづかみにされて、「はい、これと取り組みます。」
帯には「三代目J SOUL BROTHERS」のメンバーのコメント。
裏表紙に見える解説者は「佐藤優」。
著者は東大・パリ大にも学んだ哲学者。
表紙の登場人物みても、展開がみえない。
「勉強の哲学」と「バカ」って何がどう結びつくのか?
幹事さんの「アート思考と関連付けてください」のお言葉に「昭和のオジサンにできるのか!」と思いつつ、ドキドキのチャレンジ第六弾。
<目次>
はじめに
第一章 勉強と言語-言葉偏重の人になる
第二章 アイロニー・ユーモア・ナンセンス
第三章 決断ではなく中断
第四章 勉強を有限化する技術
結論
付記
補論 意味から形へ―楽しい暮らしのために
参考文献
あとがき
解説「究極のビジネス書」佐藤優
世界に対抗するのはボケとツッコミ
第一章冒頭のタイトルがいきなりの爆弾。掴みは十分。曰く、
勉強とは自己破壊である
『勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版』 p.18
「え、勉強って自分形成なんじゃないの?」という昭和のオジサン的思考回路の惰性は
自分は、環境のノリに、無意識的なレベルで乗っ取られている/言語を通して、私たちは他者に乗っ取られている
『勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版』p.28/p.33
に遭遇し、ぶっ飛ばされて、猛然とした加速度で議論はジェットコースターのように展開します。
恐るべき世界に対抗する私たちジェダイのライトサーベルは「ボケとツッコミ」あるいは「アイロニー/ユーモア」?
なんか、そんなんで対抗できんの?と思わずつぶやいてしまいそうですが、実はその武器はなかなかの優れもの。
まさに「フォース」であることが明らかにされてゆきます。目から鱗体験。
本書の構成
本書は非常に読み手に親切にできています。
大事なキーワード、キーフレーズは太字になっています。
巻末には「結論」として肝が極めて簡潔に4ページでまとめてあります。
お急ぎの方はイントロとしての「はじめに」とこの「結論」で概要を把握できそうです。
さらに突っ込んで、背景にまで進出したい方には「付記」として学問的背景への道案内が付されています。
一読して浮かんだのは、美術館に展示された男性用小便器の光景
デュシャンの「泉」が、挑戦的に明らかにするのは、「小便器」は「アート」ではない、という思い込みをいだく者はまさに、「小便器」は「小便器」に過ぎない、という「他者」が設定する「言葉」に、どっぷりと依存している姿です。
本書は、
言語によって構築された現実は異なる環境ごとに存在
『勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版』P.36
すると喝破、この言語の特性を逆手にとって「言語を現実から切り離して……言語操作によって無数の可能性を描く」というウルトラCが提示されます。
「その手立て/武器/ライトサーベルとしての、言葉が思考を拘束する枠組み「環境/ノリ」を根底から覆さんとする「ボケ(アイロニー)」と、軸をずらして「環境/ノリ」を相対化し、現実を構築する多層的なレイヤ構造を見える化する「ツッコミ(ユーモア)」の戦略的有用性。
なるほど、「小便器展示」を構想したデュシャンの思考は、こんな感じだったのかもしれないと、妄想が暴走しました。
「点数稼ぎ」 の「勉強」=「自由からの逃走」/「世界」構造のひっくり返し武器への展開
自分が軽々にしてきた「勉強」というと、スクール形式での餌としての知識のインプット。
それは自分の判断軸を他人に依存することへの反復練習でしかない、自ら檻に入らむとする家畜の所業。
あるいは自らの存在意義を外部に依存し、判断軸を外骨格とする生き方であったのかもしれません。
「アート思考」って「これだ」というものはいまだに自分でも模索中です。
しかし“「あらゆるもの」を「常識」から切り離し、新たな切り口で「捉えなおし」を行ったうえで、「自分」という「主語」を軸に据え、使える道具として組み替え、使いなおす”、そんな思考回路なのかも、と考えれば、筆者の提示する「勉強」は判断軸を背骨化し、自由を獲得した「バカ」への道標であり、「アート思考」に通じるものがあると考えました。
佐藤優氏は
究極のビジネス書
『勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版』p.254
と解説していますが、まさに、世界の捉えなおしの「ガイドブック」として手元に置きたい一冊です。
東京理科大学大学院教授(技術経営)。
組織や「ひと」の再生・自己革新シーンの存立構造、災害レジリエンスの社会的構築に関心大。「アート思考」の切り口に注目しています。1987年東大法学部卒、日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。シティバンク、産業再生機構を経て、独立。事業・組織の変革・再生シーン支援に従事。3.11では政府による東電デューデリジェンス、国会による原発事故調査(国会事故調)にプロマネ機能として参画。複数企業の役員、サイバーセキュリティベンチャー経営等を経て、2019年4月から現職。