芸術的創造は脳のどこから産まれるか

「創造性と脳の関係」に注目した本はこれまで数多く出版されていますが、この分野の研究は日々進んでおり、数年経つと情報が古かったりすることも少なくありません。

そのような中、本書は最新の脳科学研究から見た「創造性」を知るのにうってつけの一冊です。

「芸術(アート)」というと美術を連想する方が多いかもしれませんが、本書はとくに音楽と脳の関わりについてページが割かれています。

著者の大黒達也氏は、オックスフォード大学やマックスプランク研究所、ケンブリッジ大学などで研究をしてきた気鋭の脳科学者であると同時に、幼少期からピアノや作曲に打ち込み、本気で作曲家を目指していたとか。

現在はメンタリストDaiGoさんのリサーチャーも務めているそうです。

芸術的感性は既知と未知の「ゆらぎ」で生じる。睡眠などによる「あたため」が発想を導く。「多種多様な環境」が海馬の成長を促す。マルチリンガルは「脳内辞書」のスイッチを切り替えられる…脳科学者が300本以上の論文を基に考察。

「BOOK」データベースより

脳科学研究者の立場から、多角的なアプローチで「創造性」に迫った書籍。脳科学研究の最先端がわかりやすく解説されています。

目次
まえがき
第1章   音楽と脳科学
第2章   音楽と潜在記憶
第3章   脳はいかにしてクリエイティブな芸術を生み出すか?
第4章   発想力を身につける生活習慣
第5章   脳の成長に適した教育法
第6章   外国語はどのように学ぶのがよいか
第7章   潜在記憶研究の進展へ向けて
あとがき

「最新の知見をいかに自身の成長やアイデア創出に活用するか?」

目次を見ていただくとわかると思いますが、全7章の内容は多岐にわたっており、どこからでも脳科学における最新の知見を得ることができます

本書の特徴を端的にまとめると次の3点だと思います。

  • 最新の脳科学の知見が端的にまとまっている
  • 実際に活用できるヒントがたくさんつまっている
  • ユニークな音楽分析

ひとつ目は、最新の脳科学の知見が端的にまとめられていること。

たとえば、これまでアイデアとは脳の「デフォルト・モード・ネットワーク」と「エグゼクティブ・ネットワーク」、そして「サライアンス・ネットワーク」という3つの脳の働きから産まれると言われていました。

「デフォルド・モード・ネットワーク」はぼーっとしているときに活動し、「エグゼクティブ・ネットワーク」は目的に向かって頭を動かしているときやアイデアを評価するときに活動するとか。

良いアイデアは、お風呂に入っているときや散歩をしているときに産まれる経験は多くの方がしていると思います。僕自身、机の上ではなくリラックスした状態で企画が思いつくことが多くありますが、それは前者の働きによるものでしょう(ちなみに3つめのサライアンス・ネットワークは、このふたつの働きの橋渡し的な役割を果たすようです)。

しかし近年の研究では、創造的な人は、この3つが同時に働いていることがわかったそうです。つまり創造的な人はアイデアを生み出しながら同時に評価している。それだけ物事を生み出すスピードが速いということです。

ふたつ目は、実際に創造性を高める手法やヒントが多数紹介されていること。

第3章では、拡散的思考と収束的思考や、内発性と外発性など、さまざまな角度から創造性が発揮されるかを解説しています。

その多くで、脳は予測できない(不確実な)問題に取り組むときに創造性が働き、それを解決したときに快感が得られるそうです。

いかに不確かなことに取り組むか、またそれが難しければ難しいほど、それを解決したときの喜びも大きいというわけです。この繰り返しが創造性を高めることにつながるとしています。

みっつ目はまた、ユニークな角度から音楽を分析している点。バッハやベートーベンの楽曲解析からその創造性を探っており、たとえばベートーベンは、耳が聴こえなくなってからのほうが不確実性の高い(予測できない)フレーズが増えているそうです。

つまり晩年に行くに従い、より内面から湧き出る「不確実性」を追い求めていたのではないかと考察しています。

ほかにもビル・エバンス、ハービー・ハンコック、マッコイ・スタイナーといったジャズピアニストのメロディやリズムを分析し創造性を探っているなど、音楽好きなら興味深いネタがたくさん。

この本はあらゆる角度から「創造性」について触れているため、とにかく情報量が多い! 

文章は平易ながら、一読しただけだとすべてを頭の中で整理するのは大変かもしれません。

そこで全部をつなげようとせずに、アイデア創出のやり方や自分を成長させるヒントを得たり、この本を参考に自分なりの方法論を考えてみたりといった使い方もできそうです。

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