【グレートリセットとアート思考】

世界経済フォーラム』通称ダボス会議2021年のテーマは『グレートリセット』‬です。

2021年、様々な経済系のメディアがこの言葉を多用し始めるでしょう。ちなみに、ビジネスシーンでも使われる予測不能な未来という意味で使われるVUCAという単語もダボス会議から注目を浴びるキーワードになりました。

ダボス会議はスイスの田舎(アルプスの少女ハイジが居そうな)で毎年、政治家、経営者、ジャーナリストなど社会的影響力のある人々を3000人近く集めて開催していますが、今年はコロナウィルスの影響で21年の夏に開催となるそうです。

世界経済フォーラム(World Economic Forum)通称ダボス会議は1971年にスイスの経済学者、慈善活動家のクラウス・シュワブ教授によって設立された官民両セクターの協力を通じて世界情勢の改善に取り組む国際機関政治や経済界にとても大きな影響力のある会議です。

https://www.youtube.com/watch?v=SxowPx_zFWc

資本主義という表現はもはや適切ではない。金融緩和でマネーがあふれ、資本の意味は薄れた。いまや成功を導くのはイノベーションを起こす起業家精神や才能で、むしろ『才能主義(Talentism)』と呼びたい

出所: 日本経済新聞2020年6月3日「資本主義の「リセット」議論を WEFシュワブ氏 21年のダボス会議テーマに」

シュワブ氏は資本主義の時代から才能主義[タレンテイズム]の時代になっていくと言います。
ウィズ・コロナで経済衰退が免れない世界的な大きな流れの中で私たちにどの様な影響が生まれるでしょうか?資本主義から才能主義、組織から個人の力へ。つまり、新しい物を創造する力をもった人才が求められる時代になるということです。

ポスト資本主義とアートについて

美術手帖の10月号は「ポスト資本主義とアート」という特集を組んでいました。経済学だけでなく歴史学、人類学、哲学などの学者が資本主義の崩壊やポスト資本主義について語り始める中、コロナウィルスによって資本主義の限界がさらに浮き彫りになってきました。アートと資本主義の関係について若き哲学者マルクス・ガブリエル氏は「アートそのものは経済の一部ではないのです。本来、アートは経済的搾取を否定するものです」(美術手帖 2020年 10月号あインタビューより)また、アートは経済活動よりはるかに強大なもので資本主義の影響を受けるモノではない、なぜなら人の営みの全てにアートが浸透しているかだらと言います。一方でアートが権威の象徴であった時代を経て、現代ではアート作品が商品化され、投機の対象になっているのも事実ですが、哲学の視点から見ると経済活動に取り込まれたアートの裏にはもっと巨大で人間の本質にかかわるモノがあると言っています。

「贈与」とアートについて、、、

また、「贈与」という概念について美術家の白川昌生氏は人類学者のマルセル・モースの「贈与論」から社会は等価交換の商業的取引を行う上層にある貨幣の領域と、生命、絶対的受動性に対する交換つまり養育、教育、医療、福祉、介護、そして文化活動(芸術など)の下層の領域があり、この社会で人は相互信頼、相互協力して社会を形成することができると言います。

人が産み出されるという絶対的受動性という不可避な贈与関係が下層の領域にあるとしています。簡単に言えば人間の生命自体が贈与(授かり物)から始まっているわけです。子供を育てる親子の関係に等価交換や商業的取引はありません。そこには無償の愛がある。この愛においては資本主義は成立しないのです。愛するからこそ無償の何かを注ぐ。これが「贈与」であって、「贈与」の連鎖が世界を豊かにすると言います。

このアートにおける「贈与」について、逗子アートフェスティバルのプロデュースをしていて感じたことがあります。毎年、逗子海岸に漂着した廃品を回収して大型のオブジェを作る松澤 有子さんの作品制作を手伝った時に、延々と細かい作業が続く中で、時々我に帰ります。何ができるのか、完成も見えないし(きっと松澤さんにも見えていない。。)どこまでやるのか?いつ終わるかわからない。果たして会期に間に合うのか?なんのために自分はこの作品に時間と労力を割いているんだろう、この作業になんの意味があるんだろう?

https://youtu.be/6ATaMPnhmsc
『ぼくたひのうたがきこえますか』松澤 有子  逗子アートフェスティバル2018

この作業には報酬もないし、評価されるかもわからない、やらなければいけな義務もないのに、ただひたすら同じ作業を繰り返していいきます。

この活動がまさに上記でいう下層にある商業的取引やお金に変えられない価値を生む時間なのではないかと思いました。その先には達成した喜びと一緒に作った共感、そして鑑賞した人々の賞賛というご褒美が待っていました。

アルバイト代をもらっていたら資本主義的な<労働>になり、この精神的な充足感はこれほど味わえなかったかもしれません。

アート作品の制作には、お金儲けのため、評価を得たいがためではない等価交換できない<贈与>の価値があると思うのです。

才能主義の時代」について、、

‪今までは人材を使って財を生む時代、
これからは人才が新しい価値を生み出す時代。‬

資本主義の発展において、経済は「雇う人・雇われる人」の構造を生み出し、雇われる人、つまり労働者は生産性におきかえらえ財を産む為の材料の様に扱われてきました。いわゆる企業の歯車(機械)です。余計な事をせず、言われた事を正確に黙ってこなして行くことが人材に求められました。一方で私たちは資本主義によって物質的な豊かさと安全な社会を保障されてきました。世界的に見れば比較的、暴動や貧困、衛生面で安全性の高い日本の社会で暮らすことができているのは資本主義の発展に寄与し、汗水流した人々の尽力のおかげです。私はここで資本主義を否定しているのではなく功労者が作ってきた社会とこれからをどうやって結ぶかということの大切さを話しています。

ここ数年で仕事の半分以上をAIやロボットが代行すると言われています。モノの量産や誰にでもできる仕事、つまり生産力は機械にアウトソーシングし、組織の歯車としての人材の多くは機械に置き換えらてしまいます。

資料:柴田制作

これからは‪ひとりひとりが才能を活かしていく才能主義の時代になっていくと言うことです。そのためには個々が人と違った自分の才能を開花させ、組織はその才能を活かすことができる環境の整備をする必要があります。創造力は誰の中にもあるモノです。様々なバイアスや既成概念で封じ込められてしまった創造性のをフル活用することが求められる時代になってきました。

以上がアート思考が必要になる時代の背景としてセミナーでお話していることです。2021年、才能主義の時代、今まで以上にアート思考が注目を浴びるのではないでしょうか。

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