【アーティストも起業家も未来に生きている】

あなたは未来からの情報に向かって生きているのか、過去の情報に生かされているのか?

自然科学における時間の因果関係は過去に原因があると考えられてきました。教育も過去から学ぶことが基本となっています。

川の流れを時間だとして、川の真ん中にあなたが立っているのを想像して下さい。その時、あなたは上流を見ていますか?下流を見ていますか?
新しいことを生み出している人は川の上流を見て、過去の実績よりも未来に対する話を多くしているように思います。してきたことよりしたいことの話です。ある投資信託の理事長が、過去しか語らない経営者にはお金を貸さない。と言っていました。

それはどういうことか?多くの人は過去を基準に判断しています。経営の基礎は過去の実績やデータに基づいて成り立っています。事業計画は過去のデータをもとに未来を計画しますよね。マーケティングデータはまさに過去の情報です。または、過去に作られた設計図を元に再現することが生産の基本となります。事業の価値も信頼と実績、つまり過去の蓄積にあります。
そして、AIは膨大な過去のビッグデータの蓄積無くして人間にかわって未来を推論することはできません。つまり、世界は連続的な過去の蓄積で構成されています。

自分は過去に興味がなく、過去に作った曲やライブはほとんど聴きかえすことはないし、とにかく物忘れが激しい。嫌な事を言われても忘れるし、逆に褒められた事もあまり覚えていない。仕事では大手企業の数億円規模の仕事をしてきましたが、出来上がったモノやサービスには全く興味がないので常に完成するとその場を離れてきました。大変だったなーくらいで何をやったかというノウハウはあまり思い出せません。もし、その実績や成果を蓄積し、それを元手に事業をしていてたらもっとお金持ちになって、大きな家にでも住んでいたと思います。そういう意味で、今までとても損をしている気がしていました。と言っても、興味がないのだから仕方ありません。結果的に私は権力にもお金にも安定した生活にもそれほど興味がなく、1つ興味があるとしたら今何をしているか?そして、次に何をやろうか?だけです。

ビジネスを起業する、新規事業を開発するのは誰でもできます。大切なのは事業として持続させて収益を上げ企業にすることです。それは、私の領域ではなく、私は一時的に組織に関わり新しい価値をつくるところまで、そこから利益をあげるのは企業の役割です。そう思ってやってきました。自分の立場は、そういう意味ではアーティスト的なのだと思います。だだ、アーティスト的な発想を活用して立ち上げた新規事業の半数以上は成果を上げているので結果的にはそれで良かったのだと思います。また、1つの成功に固執しないことで様々な全く違った新しい一歩を体験できたことが、たくさんの引出しになり、何よりの宝だと思っています。

アーティスト達は常に非連続な未来を見ているのだと思います。
もちろん過去の経験の蓄積が技術やセンスにつながっているのですが、常にまだ見ぬなにか、つまり、今までにない(非連続)な未来作品を追求しているのだと思います。

例えば。

『芸術の世界で人がやっていたことは、自分が5年も10年も100年も先にやってしまっていたので、人の真似をする必要などなかったのです』

(草間彌生「水玉の履歴書」p33)

5年、10年ならわかります、100年先にやっていたこと、、です。

夏目漱石の「夢十夜」という小説で運慶が仏像を掘る件があって、運慶は仏像を掘る技術が卓越しているのではなく仏像が埋まっている木を見つけているだけだ。と、ありました。これはとても興味深い表現です。その木の中に未来の仏像の姿が見えているということです。

音楽を即興演奏するとき音は未来から降ってきます。今聴こえている音の先を予測しながら演奏するのが即興演奏です。

“When you hear music, after it’s over, it’s gone in the air. You can never capture it again. ”

エリック・ドルフィ

音は一瞬のひらめきにあり、その一瞬は捕まえる事が出来ない。即興演奏はこの瞬間の音をひたすら捕まえて未来の音に向かって進む演奏法です。

ジャズミュージシャンのエリック・ドルフィが 死の直前に残したアルバム「ラスト・アルバム 」の最後にドルフィー自身の言葉で語られる言葉です。

ラスト・アルバム 」エリック・フォルフィ

つまり、今この瞬間のひらめきや直感からまだ見ぬ未来作品を生み出す行為がアートなのではないか?

自己の内面を見ると同時に卓越した人は未来を見ています。そこに向かう時、売れたいから、目立ちたいからなど余計なことは考えていないのです。本質的に何を求めているのか?が問われます。

私が超能力の会社で働いていたとき、超能力者に「超能力は何か?」という質問をしたことがあります。「F1レーサーは100m先に落ちているボルトが見えるということだ」という答えが返ってきました。時速100キロ以上で走るレーサーにとって100m先は数秒後です。ボルトが見えなかったら命に関わる本質的な問題なのです。

卓越した集中力、つまり研ぎ澄まされた技術の話だとずっと思っていましたが、1秒先を予見できることは、未来を見るということであって、ある意味予知能力だということがわかります。人間の能力を高めると直感的に未来を見通せるようになるということではないでしょうか。

ビジネスにおけるイノベーションはどうでしょう。
iPhoneが世に出て約15年になりますが、15年前の人にiPhoneを説明してみてください。電話でもない、テレビでもない、地図でもない、手紙でもない、音楽プレーヤーでもない。。。でも。その全てという端末という説明が当時の人に想像できると思いますか?つまり、iPhoneは圧倒的な創造力で、今までにない未来端末を予言して、それを一般化したということです。これまでの電話、もしくは音楽プレーヤという基本機能が非連続的に進化した端末なのです。ただし、そこに搭載されているモノは全て既存のモノ(機能)です。
ジョブズが言うように「創造性とは結びつけるだけ」の事です。ある時、個々の要素が結びつき、全く新しいモノが生まれる。よくイノベーションは0から1と言いますが、私の考えるイノバーションは1+1+1+1+1+…の積み重ねから、見たことないような「新しい1」が生まれることだと思います。その道のりはアーティストが作品を生み続けるように今まで見たことのない作品を追い求め、内面への問いを続け、試行錯誤や失敗の蓄積から生み出す工程と似ています。

アーティストの創造性は未知の作品、つまり未来を見ている、そう言う点で起業家と似ているのかもしれません。
さらにはテクノロジーも未来への妄想や願望が推し進めています。その根本には利益の追求だけではない人間(ホモサピエンス)が持つ本能が作用していて非連続の進化(ジャンプ)は、進化への欲求が蓄積し臨界点を超えたときにやってくるのではないか?と思うのです。

今、未来という川の上流にボールを投げる人、そして、それを受け取る人が必要で、過去のボールを抱えて川下を向いている場合ではないのです。

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