デザインアート思考 使い手のニーズとつくり手のウォンツを同時に実現する10のステップ

本書は、まず巻末の「対談」から読まれることをお勧めします。本書の言いたいことはそこに集約されています。

掲載されているのは御茶の水美術専門学校が40年以上にわたり研究を続けてきた”クリエイティブ”の論理的な教育方法、その背景/目的について、そのカリキュラム設計者である服部校長とクリエイティブディレクターとして有名な佐藤可士和氏との対談です。

彼らの教育の基本はプロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)にありました。書名にある「デザインアート」という言葉は記号だと思って全体の流れを掴むように読むとよいと思いました。

<目次>
まえがき なぜビジネスパーソンにデザインアート思考が必要なのか
パート1 デザインアート思考とは
パート2 デザインアート思考で課題を解決しよう
パート3 対談「ビジネスでこれから求められる人材とは」
あとがき デザインアート思考で可能になること

■クリエイティブは教えられるか

先日、本書パート3の対談相手のひとりでもある佐藤可士和氏の作品展を鑑賞しました。

作品量とその幅の広さに圧倒されますが、一番興味深かったのは佐藤氏自身が語る展示各プロジェクトの実際の検討過程です。

「〇〇のお話を聴いて気が付いた」「その時ふと思ったんです」などなど、徹底的に調査し考えている時にふと降りてくるアイデアについての言及がありました。

世の中がクリエイティブ職に持っている「通常では思いつかないすばらしいアイデア、まったく新しい視点を出してくる」という期待は、まさしくこのことを言うのでしょう。

さて、本書の帯にはこうあります。


「ステップをたどれば、独自のアイデアが自然に生まれる」

本書に紹介されている10のステップを踏むと、果たして斬新なアイデアはふと降りてくるのでしょうか。

■パッチワークのような10のステップの意味とは

紹介されている個々のステップは、新しいものではありません。

ここでは、狭義のデザイン手法にとどまらず、マーケティング手法や、ビジネス戦略に関係する言葉が各個に深入りすることなく次々と紹介されています。

本書では、これらをマーケティングとプランニングと言う2つの円を軸としたモデルに配置して説明しています。

10のステップでは、モデルの中で複数の方向に思考を飛ばします。

独自の言葉の再定義も行われるので事前知識のある読者はかえって混乱するかもしれません。

しかし、途中で、このような多様な方向性を持つ幅の広い活動こそデザインコンサルタントの行っているデザインマネジメント/デザインコンサルティングそのものだと気づかされます。

すなわち、製品の見た目、使い勝手のみならず、新たな視点での市場定義、サービスやビジネスのデザインに至るまでを行う活動のことです。

本の帯にある「ステップをたどる」とは、個々のメソッドを精緻になぞることだけではありません。

それは問題解決にフォーカスする狭義のデザイン思考に囚われない多様な思考のプロセスを指していたのだと思います。

この多様性をもたらすのが、作り手の想いをベースとするアート思考だったのです。

デザイン過程をデザインした

本の帯にはこうも書かれていました。

「何か新しい結果を出したかったら、やり方を新しくデザインするといい」

著者らはビジネスにおける課題発見や課題解決のアイデアを生み出す方法を設計(デザイン)したのです。

本書は、方法論のひとつである「デザイン思考」を本来の目的のための手段として他の知見・方法論と組み合わせた活用を促すものでした。

■手順を教えて、経験の高速回転を促す

先に述べたように本書は、意図が語られている巻末の「対談」を先に読むとよいと思います。

本書は、専門学校で教えているデザイン思考のプロセスを著したものですが、デザインされたのはそのプロセスだけではなかったことがわかります。

トレーニングの背景にはPBL(ここでは学んだプロセスを用いて、自ら課題を発見定義しこれを解決する過程の中で、その能力を身に着ける学習法)がありました。

具体的には以下のような活動を指しています。

  • さまざまな企業からの「お題」(学習のために作られた課題ではなく、本物の問題)をいただく
  • 学んだ手法を使って問題を高速に解いていく
  • これを2ヵ月ごとに繰り返す

デザイナーが実践している内容をプロセスとして書き下ろして紹介すれば、確かにこの本の内容もそのひとつにはなります。

しかし、本当の問題に本気で対応する経験を同時に積まないと身にはつかないということでした。

学んだ理屈をすぐに実践する、これを繰り返すことでようやく「ふと降りてくる」ようになるのでしょう。

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