ハウ・トゥ アート・シンキング

本書を、読み進めて感じる「違和感」。文章は平易で、内容も非常に面白く、気づきの連続なのに、どうしても「モヤモヤ」が晴れません。

それは、タイトル「ハゥ・トゥ・アート・シンキング」と「内容」が一致していないように感じたから。

タイトルから「アート・シンキングのハウ・トゥ(How to)本」だと思い、読み進めてきました。

それなのに、読めど読めど「ハウ・トゥ」が分からない。

むしろ、書かれていない気すらします。書評を書くことを決めた上で読み進めていたので、悩み始めました……。

しかも、章立てがおかしい。

「はじめに」の次が2章、その次が13章、その次が11章 ……。

意味が分からない……。

ちゃんと素敵な書評が書けるだろうか……。

しかし「あとがき」まで辿り着き、思わず、声が出てしまいました。

「やられた! まんまと著者の作戦にハマってしまった……。」

これは、そもそも「ハウ・トゥ」本ではないのです。

“ロジカル・シンキング→デザイン・シンキング→アート・シンキング。閉塞感を打ち破る自分起点の思考法。なにをしよう。どうしよう。仕事や人生に「モヤモヤ」を抱える人のための思考術。それが、アート・シンキング。”(「BOOK」データベースより)

目次
はじめに
2.  アートの価値はなにで決まる? 「おなじ」より「ちがい」を生むチカラ
13. アートは身体的? 異質性を活かす「身体」の思考
11. アートは「自分」をアップデートする? 「制約」が常識を超えた新しい視点を生む
17. アートはmetaphorical? 世界の見方を「多次元化」しよう
4.  アートに「正解」はない? 「わからない」がイノベーションを生む
16. 技術とアートの共犯関係? 文化を革新するinspireとchallenge
19. 新規事業に「アート・シンキング」? 「自分」起点の事業をつくる
14. アートは予期できない? 想定外から生まれる価値
3.  「アート・シンキング」は詩的? 「分からない」モヤモヤを楽しもう
20. 「アート・シンキング」は培養菌? 消費せず、培養する社会のつくり方
10. アートは変幻自在? 真・善・美に挑む精神の冒険
15. アートは触発し合う? 「触発」の感性を磨く方法
12. アートのエネルギー源は「偏愛」と「違和感」? 理屈を超えた熱量が価値を革新する
18. アートとスタートアップはおなじ夢をみるか? アート制作と起業家マインドセット
7. 「アート・シンキング」は「当てにいかない」? 価値とは「自分」を愛すること
1. 「アート・シンキング」はどうして生まれた? ビジネスにおける思考法の進化
9. 「アート・シンキング」忘るべからず? ときどき、思考をスイッチしよう
6 「.自分」を欺く3つの罠? 「ありたい」「あるべき」を手放そう
5. アートは「自分」がクライアント? 個の時代を生き抜く力をつける
8. 「アート」と「遊び」はムダ?
おわりに
あとがき

自分らしさ(偏愛・違和感)× 分からない(触発)= ちがい

最後まで読むと気づきますが、そもそも、この本を「分かろう」とすること、「まとめよう」とすること自体、できないように仕掛けてあります(詳細は、ぜひ本書をご一読ください)。それをどうにか、私なりの「気づき」という視点で、綴らせていただきます。

本書からの最大気づき。

それは、現在の「価値」とは「ちがい」であるということです。

『世界大百科事典 第2版』(平凡社)によると “価値とは〈主体の欲求をみたす,客体の性能〉”と定義され、「主体の欲求」が変化すれば「価値」も変化するものと考えられます。

日本が成功を収めた高度経済成長期の「発展途上市場」と、市場の飽和と情報・モノが過剰な状態にある現在日本の「成熟市場」では、そもそも求められる「価値」が異なります。まず、その求められる「価値」が変化したことを、どれだけの人が意識できているでしょうか。

“「おなじ」ものをつくれば売れた時代は終わりました。これからの時代には他にはない「ちがい」がつくれなければいけません。(中略)「箱ティッシュ」が教えてくれることは、代替可能なものは、「ニーズ」がどれほどあっても「おなじ」ものにあふれた成熟市場では、選ばれないもの、価値の低いものになってしまう、ということです。”

『ハウ・トゥ・アート・シンキング』(p.27)

「アート思考」がこれからの時代に必要なのは、アートの価値こそが「ちがい」だからです。アーティストのように、自分の内面を深く探り「自分らしさ」を見つめ、他との「ちがい」に着目し、オリジナリティを創造する。「アート思考」によって、今の時代に求められる「価値」を生み出すことができます。


筆者は、この「ちがい」を生み出す方法を2つ提案しています。

1つは、自分だけがもつ無尽蔵のエネルギー源となる「偏愛(フェチなど)」や「違和感」を理解し、人とはちがう「自分」起点で仕事をすること。

もう1つは、自分や組織が「おなじ」を再生産する状態に陥った時に「分からない」「ちがうもの」を混ぜて「触発」を増やし、自分や組織をアップデートすること。

ここで、1つ目の「「自分」起点で仕事をする」に対し、「偏愛や、違和感と言われても…」という皆さんの心の声が聞こえてきます。そうですよね、私もそうです。「自分」の姿は、鏡でしかみないように、「自分」や「自分らしさ」は、自分が一番分からないのかもしれません。そこで、別の角度から「自分」起点や「自分らしさ」を見つめてみましょう。

「自分(らしさ)」の見失い方を知る

本書には、私たちが、個人として、企業として、どのように「自分らしさ」を見失い、「同化」していっているのかの事例も、多く散りばめられています。大きな組織に勤めている人ほど、耳が痛い内容が書かれているかもしれません。

  • マネージャーを「管理職」という極めて「工場」的な訳語に変換する日本社会。(「工場」は、製造業に典型的なパラダイム。「おなじ」が価値。)
  • 「自分らしさ」ではなく「誰かが用意した正解」を当てるレースを勝ち上がってきた高学歴な人材たち。
  • 上司のニーズを「当てにいき」、相手に「合わせる」ことで同化し、出世と引き換えに、自分の価値を希薄化させていく人材たち。
  • 「自分」に合わない無理な多角化をして、結果として「自分」を見失う企業。
  • 他の企業にも当てはまる「自分らしさ」のないミッション・バリューを掲げる企業。

身に覚えはないでしょうか?これらは、ほんの一例です。

第6章「「自分」を欺く3つの罠?」では、①大きいものに隠れる、②欠損と考える、③当たり前だと思う、という「自分」を隠す3つの罠についても、著者は、詳しく説明してくれます。

私たちは「自分らしさ」の見つけ方と、見失い方(罠)の双方を理解することで、より効果的に「ちがい」の源となる「自分」を理解することができるのではないか。

本書を読むと、そんな期待をもつことができます。

 正直、この書評が、本書の書評として相応しいのか分かりません。

でも、きっと相応しくなくてもいいし、分からなくてもいいのかもしれない。

なぜなら、それが筆者の狙いなのだから。

ぜひ、皆さんも、筆者の仕掛ける「分からない」の迷宮に一緒に迷い込んでみませんか?

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