アート思考を説明する言葉に「自分軸」がよく出てきます。
「明治大学サービス創新研究所 アート思考研究会」では
ゼロから一を生み出すアーティストの思考プロセスをヒントに、
自分起点で、未来・社会の視点を持ったシリアル・イノベーション
を生みだす人づくりに貢献する。
とあり、「自分起点」という表現をしています。
大学生向けのセミナーでもアート思考(創造性)の前に「自分軸」や「自分起点」がわからないという質問もあります。
ゴーギャンの絵のタイトル
「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」
の様に、<自分がなんだかわからない>が人間の根底にある。
それを問うてしまうのが人間であり、哲学であり芸術でもあるわけです。
まさに生きること自体、自分とは何か?の「問い」そのものです。
子供の頃はそんなこと考えず、ただある自分で生きていたはずが、
いつしか「自分とは何か?」という疑問が生まれる。それは社会との関係性から生まれる自分の存在意義だったり、もっと内面的な存在の根源への疑問であったりします。
ゴーギャンの作品タイトルの意味を時間の観念から考えてみましょう。
「どこから来て」
「どこにいて」
「どこへ行くのか」
これば自分の場所と同時に過去、現在、未来を意味しています。
時間の中で私は
過去:「私であった自分」
現在:「私」
未来:「私であるだろう自分」
となります。
この中で確かなものは記憶としての「私であった自分」だけです。
私は私といった瞬間に「私であった自分」になっていく、私という一瞬は捕まえることができないので言葉に出した瞬間に過去の私になっていきます。時間は常に流れているので「私」をつかまえたら時間も止まってしまう。未来の私は「私であるだろう」の確率でしかありません。
時間の中で「私」は捕まえることができないのでしょうか?
多くの芸術家やアスリートが体験するフローという状態。
これを心理学者のミハイ・チクセントミハイは芸術家やアスリート、物理学者や起業家など8000人のインタビューからフロー状態を「時間の流れを忘れ、ひたすらそのことに没頭し、得も言われぬ高揚感に包まれた状態」と定義しました。時間の感覚が消失し、自分自身のことを忘れてしまう瞬間。実はこの瞬間が本当の自分になっているのかもしれません。つまり、時間の中で「私」を捕まえている時間かもしれない。
草間弥生さんは著書「水玉の履歴書」で「セルフ・オブリタレーション(自己消滅)」のために作品を作ると書いてます。自分と一体化する、自我同一性はこの瞬間に訪れているのかもしれません。その時、自己は消滅する。
そんな孤高の瞬間とは程遠い、日常の仕事をこなしたり、家事をして生きるための作業(時間)に追われているうちにその「問い」や、自分を超えた時に訪れる本当の自分自体も薄れていきます。
自分と時間の関係は、世代によっても違います。
セミナーの中で2000人近くに受講者に「あなたの足りないもの、欲しいものはなんですか?」と質問すると「時間が欲しい」という回答が一番多です。
学生の「時間がない」は、自分がやりたい事があり過ぎる。【内発的動機】
社会人の「時間がない」は、やらなければいけない事があり過ぎる。【外発的動機】
を意味していることが多いです。
まず第一に、「自分軸」は自分が使うことのできる時間によって定義されます。
誰のためでもなく、自分の時間を生きれるかどうか?
芸術家は誰かのために時間を費やすのではなく、自分の表現のために時間を費やします。お金にもならないかもしれない、誰も評価しないかもしれない作品に時間を費やします。
その時、芸術家は時間の制約を超えた「自分」を体験しているのかもしれません。
大人になるにつれ、やらなければいけない時間、やらされている時間【外発的動機】は増えてきます。「自分軸」は当然のことながら【内発的動機】から生まれる自分の時間です。「自分軸」の基本はどれだけ自分のために時間を費やしているか?
だと言えるでしょう。
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柴田”shiba”雄一郎
1966年生まれ、日本大学芸術学部 演劇学科卒業。
アート×デザイン思考講師/ トヨタ自動車から内閣府まで新規事業開発専門のフリーエージェントを経て公益代理店 一般社団法人i-baを設立。熊本大学「地方創生とSDGs」/京都芸術大学「縄文からAIまでのアート思考」非常勤講師。地域デザイン学会 参与。FreedomSunset@江ノ島主催。DJ/トランペッター。逗子アートフェスティバル2017・2020プロデューサー。https://www.facebook.com/shiba.FreedomSunset/