アート思考とマネジメント⑶

アート思考とマネジメント⑵では、アート思考のカリスマイノベーターによるワンマン経営が現実的ではないというお話しをしました。そこで、日本の企業に多い一般的な組織では、どの様な組織で新規事業を具体化させたらよいかについて考えていきたいと思います。日本企業の一般的な組織はピラミッド型の構造をしています。この構造は高い生産性、業務効率、明確な役割分担が特徴で、生産性重視の経済においては有効に機能します。今の私たちが高度成長期を経て物質的に豊かな社会に暮らせるのもこの構造のおかげと言っていいでしょう。かつては、とにかく商品を効率的に大量生産すれば売れた時代もありました。3種の神器と言われた冷蔵庫、洗濯機、テレビは1980年にほぼ100%の家に普及し、それから40年を経て、山口周氏いわく、”物質的貧困が解消され物質的満足度が高い水準に至った「高原社会」”に至ります。モノが飽和した社会で大量生産、大量消費は必要なくなりつつあり、今まで有効であったピラミッド型の構造は意味がなくなってきました。さらに、市場の変化が激しい中で、縦割り構造での下から上に順番にお伺いを立てて決裁を取る様なスピード感では全く追いつけなくなってきました。ピラミッド型の組織は時代遅れの構造になってきたということです。

さらにピラミッド型のヒエラルキーがある組織は新規事業が非常に生まれにくい構造になっています。このVUCAの状況にあって誰か1人の判断と責任でGOサインが出せるでしょうか?簡単に新規事業やイノベーションといっても成功確率はセンミツ(1000に3つ)と言われています。ちなみに、メルカリは2016年から7つの新規事業は全てクローズしていたり、DeNAは4年間で40事業の立ち上げ、継続しているのは4、5事業だけだそうです。つまり、大手企業であっても9割近くが失敗しているケースも多いのです。

つまり、センミツと言われる成功率の中で、判断を下した責任者は最悪997回失敗を繰り返す覚悟が必要です。それだけの覚悟と責任を負って一歩踏み出すのはかなりハードルが高い決断になります。最終的には経営判断において責任は問われるのですが、個々がプロジェクトを自分ごと化することで精神的にも負担を軽くしてあげる事が必要かもしれません。

今までのようなピラミッド型組織でなく、個々が自立した並列分散型で合意形成を行う組織であれば、責任を一人が被る事なく、また、誰かに責任を擦るつけることもありません。経営判断と新規事業の現場での合意形成やエンゲージメントが高ければ、精神的な負担も軽減されます。

そこで、”ひらめき民主主義”の構造を考えてみました。脳科学者/医学博士岩崎一郎氏は「集合知性が高い状態になると、天才知性を含むチームをはるかに凌ぐ力を発揮できる」といいます。『集合知性』とは、皆が心を一つにすることで、天才知性にも勝る優れた力を発揮できる能力(知性)を言います。

一人の優れた天才的知性、いわゆるアート思考のカリスマがいなくても、個々が創造的でひとりのひらめきを共有する形で合意形成に近づけていければ、それぞれの持ち味を生かしながらプロジェクトを進めることができます。この構造を生み出すのはイノベーター(天才もしくはバカ)とマネージャー(共感の神)、そして、フォロワー(理解者)この3つのキャラクターがバランスよく機能すると新規事業を生み出しやすい組織が生まれます。単純に言えば発明する人、共感する人、協力する人の3つのタイプのそれぞれがプロジェクトを自分ごととして考え実行に移せば実現可能性は高まり、失敗があっても前に進めるチームになるはずです。

全ての職員がアート思考のカリスマの様になる必要は全くなく、アート思考の強い、人と少し違った視点の人を理解し、マネージャーはそれを理解できる様に翻訳して全員にシェアして共感を生み出し巻き込んでいきます。この動画が良い例です。

TEDでこの動画を元にして話したデレク・シヴァーズは『スゴイことをしている孤独なバカを見つけたら、立ち上がって参加する最初の人間となる勇気を持ってください。本当に運動を起こそうと思うなら、ついて行く勇気を持ち他の人達にもその方法を示すことです』と言っています。

もし社内で一人変な踊りをしている人がいたら、その人こそイノベーター的発想の持ち主かもしれません。人と違った新しい発想の意見に耳を傾けてください。あなたがもしマネージャータイプだとしたら彼の発想がいかにユニークであるか経営陣から一般の社員のみんなに伝えワクワクをシェアしてみてください。そうすると、チームは次第にワクワクを共有するひらめき民主主義のチームになっていくはずです。


アート×デザイン思考入門と実践
アート思考の入門編と実践編をスキルシェアサイト「ストリートアカデミー」でZOOMによるオンライン開催をしています。
いつでも学べるUdemyのオンライン講座 
‪2時‬間を超えるアート×デザイン思考のセミナーをオンライン学習サイトudemyに公開しました。
シバのツイッターはこちら(お気軽にフォローしてください)

柴田”shiba”雄一郎
1966年生まれ、日本大学芸術学部 演劇学科卒業。
アート×デザイン思考講師/ トヨタ自動車から内閣府まで新規事業開発専門のフリーエージェントを経て公益代理店 一般社団法人i-baを設立。熊本大学「地方創生とSDGs」/京都芸術大学「縄文からAIまでのアート思考」非常勤講師。地域デザイン学会 参与。FreedomSunset@江ノ島主催。DJ/トランペッター。逗子アートフェスティバル2017・2020プロデューサー。

https://www.facebook.com/shiba.FreedomSunset/

関連記事

  1. 第1回 受験の話

  2. 【心物融合または神物融合】

  3. 第19回 意識を自分に向ける

  4. 【ヴァーチャル・マーケット2022】

  5. 第17回 ニューエイジ

  6. 第20回 アート思考への期待と不安

  7. 【ライゾマティクスのアート思考】

  8. 第18回 カッコイイとはなんなのだ

2025年4月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

入会案内

ご入会手続きはこちらから

献本について

献本をご希望の方はこちらへ

Archive

アート思考関連記事のツイート