創造性の時代
2016年世界経済フォーラム(ダボス会議)のビジネススキルに関するレポートによれば、2015年には10位だったCreativityが2020年には3位に浮上しています。
これからの時代、創造性がいかに重要かを示唆しています。
同フォーラムは、2025年までには、AI(人工知能)が人間より多くの作業をこなすことになると予測しています。これは、AIが人間の領域を侵略することと捉える人もいますが、むしろ私は逆だと考えます。
AIと人間との分業が進み、AIがやるべきことは任せて、人間はもっと人間らしく生きるための時間を作る事ができるという積極的な解釈をするべきではないでしょうか。AIと共創する時代に生きる上で、私たちは、今まで以上に自分の未来を自分自身で自立的に思考し創造する能力が問われる時代だということです。そのためには創造性がとても重要な鍵になってきます。
創造性の源は好奇心です。何事にも興味をもって観察して吸収する事です。そこで得た様々な事柄を結びつけ未来をイメージ(妄想)することが必要になります。世界がより複雑に絡み合っている社会で、新しい結びつきを生み出す人が求められているのです。
アート思考のセミナーで伝えたい事の1つは、芸術的センスや創造性はミュージシャンや画家や小説家の持つ特別な能力ではなく、誰でも潜在的に持っている能力であるという事です。
この創造性や芸術性こそ人間を人間たらしめているものに他なりません。
進化生物学者のジャレド・ダイアモンドはチンパンジーと人間の遺伝子は「98.4%」が同じなのに、なぜここまで大きな違いを産み出したか?
その違いの一つが芸術だと書いています。
「芸術は最も高貴で、人間のユニークな特徴だと考えられている。言葉と同じ様に、なにはともあれ、これで人間と動物の間には一線が引かれる」
(参考:「若い読者のための第三のチンパンジー」P151より引用)
今一度、人間の持つ最大の能力である創造性に目を向けて見る必要があると思います。
創造性に気づく2つのワークショップ
アート思考セミナーのワークショップでは2枚の写真から「自分だけの妄想物語」を作ってもらいます。この方法を使うことでほとんどの人が当たり前に自分に備わっている創造性に気がつくことができます。
方法は簡単です。パワポの1枚目には様々な人の顔写真、2枚目には様々な場所の写真があります。直感的に顔1つと場所1つ選んでもらいます。次に「わかりません、知りません、たぶん、、」は言わない事をルールにして、顔と場所の写真から物語を妄想してもらいます。前提条件として、回答には正解がありません。なので受講者は気兼ねなく思いつきやヒラメキに頼ってデタラメな話をすることを許されます。
例えば、選んだ顔がゴリラで、場所が自殺の名所だったとした場合、私は受講者にこんな質問をします。
「あなたはなぜゴリラと一緒に自殺の名所に行ったのですか?」
ここからが妄想物語の始まりです。受講者はゴリラと自殺の名所に関する知っている事を総動員して、その要素を結び付けデタラメなストーリーを語り始めます。
受講生は、
「ゴリラを自殺の名所に連れて行きの檻に入れておくと、自殺者が減少した」というのです。
では、なぜ自殺者が減少したのですか?と質問すると。
「自殺をしに来た人がのんびりとバナナを貪るゴリラを見ていると自殺するのがバカらしくなって自殺者が減少した」というのです。
ゴリラと自殺の名所。一見、全く関連性のないものを結びつけて、それを物語化することで新たな物語が生まれたことになります。
アメリカの最大の広告代理店・トンプソン社の最高顧問であった、ジェームス・W・ヤングは著書『アイデアの作り方』で「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と言っています。
スティーブ・ジョブズもまた、創造性(クリエイティビティ)とは、物事をつなぐことだと言っています。
この組み合わせの要素の関係が近ければ、誰でも発想できるアイデアになり、要素が遠ければ遠いほどユニークなアイデアということになります。
もし本当に自殺の名所にゴリラの檻を置いて自殺者が減少したらこれはイノベーションと呼べるものではないでしょうか?
経済学者ジョセフ・シュンペーターはイノベーションについて「アイデアが新しいだけではなく、それが広く社会に受け入れられることだ」と言っています。ゴリラと自殺の名所という新しいアイデア(結合)は自殺者の減少という社会に貢献する可能性を語っています。
このワークショップをやっていると時々感動する様な物語を妄想する人が出てきます。人はそれぞれ創造性を持っている事実がこのワークショップで確認できます。
そして、もう1つのワークショップは臨床美術からヒントを得ておこなているものです。絵を描いたことがほとんどない受講生が、その場で作品を生み出し、100%自分の芸術性に気がつく圧倒的な効果のワークショップですが、これは実際にその場にいないと体感できないことなので、もし興味のある方は是非アート思考のセミナーを受講してみてください。
創造性は誰の中にもあるものです。ただ、それに気が付かず生活しているだけなのです。
この場を借りて今年1年、ご愛読いただきありがとうございました。またこの機会を与えていただいたアート思考研究会の皆様に感謝を申し上げます。
2021年もよろしくお願いいたします。
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1966年生まれ、日本大学芸術学部 演劇学科卒業。
アート×デザイン思考講師/ トヨタ自動車から内閣府まで新規事業開発専門のフリーエージェントを経て公益代理店 一般社団法人i-baを設立。熊本大学「地方創生とSDGs」/京都芸術大学「縄文からAIまでのアート思考」非常勤講師。地域デザイン学会 参与。FreedomSunset@江ノ島主催。DJ/トランペッター。逗子アートフェスティバル2017・2020プロデューサー。
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