【イノベーションは物語から生まれる】

ダイソンのサイクロン式掃除機は5000代以上のプロトタイプから生まれたという話を聞いたことがあると思います。綺麗好きのダイソン氏は自分の理想を実現するために5000回の失敗をしてあの掃除機を生み出しました。生活の中の小さな不満や憤りを解消する。日常で感じた疑問や不便に思ったことを突き詰めて考えること、たった一つのこだわりからイノベーションが生まれるのです。

私は小さな発明をしました。それは液体の石鹸を染み込ませた手拭いです。

なんてことない話のように聞こえますが、自分にとっては大発明です。

その発明の物語をお話しします。

今から6、7年前、私は腰に異様な痛みを感じ、それはみるみる悪化し、トイレに行くにも這いつくばって行くくらいの痛みになりました。普通に歩くことも出来ず、整形外科に行くと椎間板ヘルニアと診断されました。痛み止めと湿布しか処方しない整形外科では全く改善しないので中国整体、カイロプラクティク、鍼灸、筋系帯療法等の民間療法含め9箇所ほどを巡り、腰を温めるために毎日1時間半身浴を続け3年かけて少しずつ改善し今では100%完治し、休んでいたボクシンジムにも通っています。

ヘルニアが私に与えてくれたもの。

その一つは石鹸を使わないこと。1時間半身浴をすると適度な汗をかき老廃物が体の中から排出されます。そうすると石鹸で体全身を擦らなくても十分清潔な体になります。以来5年間、私は毛の生えているところ以外は石鹸で体を洗っていません。それでもシャツの襟に垢が付く事もなければ、体が汗臭くなる事もありません。人間の体は、毎日石鹸でゴシゴシ洗わなくても清潔さは保てるのです。さらに54歳を超えましたが、多分他の同世代よりも比較的肌の艶やハリは良い方だと思います。石鹸で全身を泡まみれにして洗うことは、気持ち良いかもしれませんが、それも思い込みかもしれません。毎日ゴシゴシ石鹸で体を洗う必要がないことを発見しました。

ヘルニアが完治した後も1時間の風呂は習慣となりました。風呂好きが高じて、週に1、2度の銭湯も習慣になりました。銭湯に通うようになると、また新しい発見がありました。それが銭湯瞑想です。

清水湯@鎌倉 撮影:柴田

銭湯に入っている間、約1時間スマホから隔離されます。つまり、情報からの隔離です。銭湯では、老人から刺青の入った強面のおじさんも、子供たちも平等に裸です。銭湯は非日常の平等な公的空間です。そこで私はいつものルーティーンを繰り返します。まずは5分程度全身を湯船に浸かり、その後半身浴は正座で行います。そして、水風呂に浸かり10回深い呼吸をして、外気浴で5分から10分ほど目を閉じ耳をすまします。冷えた体の表面温度が徐々にあがって行くのを感じながら、ただボーとして余計なことはあまり考えていません。この時、脳はデフォルトモードネットワークの状態にあります。最近の脳科学の研究で脳は自由で創造的な活動をするデフォルトモードネットワークとアイデアの評価や明確なゴールを目指す思考を司るエグゼクティブコントロールネットワーク、そしてその仲介役となってスイッチングをするアライアンスネットワークの3つを使いこなしているそうです。その中でも創造性を生むのに重要とされるのがデフォルトモードネットワークです。

資料作成:柴田

銭湯でボーっとしている時間こそ創造性を生み出す脳には必須の時間になります。これを数回繰り返すのが私の銭湯瞑想です。

さて、手ぬぐいの話に戻しましょう。

私は外出する時、常に銭湯に行けるように最小限の準備を携帯しています。それが手拭いです。タオルはかさばるし水を含むと重くなります。体を拭くには手拭いで十分です。問題は石鹸です。いくら体を洗わない自分でも毛の生えているところは最低限の礼儀として石鹸で洗うようにしています。その為には最低でも手拭いと石鹸を持ち歩く必要があります。そこで、私は手持ちを最低限にするために手拭いに液体の石鹸を染み込ませて携帯しています。

なんだ、そんなことか、、と思うかもしれませんが、石鹸を染み込ませた手拭いは私にとっては最小限の持ち物でとても快適に銭湯に行くことができる必需品になったのです。

これは、私の物語です。

ヘルニアの苦痛から生まれた銭湯瞑想、体を洗わないこと、そして石鹸の染み込んだ手拭い。それらは自分の生活から生まれた小さなイノベーションです。

これが自分の人生の大切なひと時を作ってくれます。さらに銭湯瞑想で常にクリエイティブな脳を意識することができます。

程度の差こそあれ、自分の物語から得られる豊かな時間、他人がそれを持つことで得られる幸福、、、ダイソン氏の綺麗好きと物創りへのこだわりから画期的な掃除機が生まれたように、原体験と内発的動機から生まれてくる物語はイノベーションを生む可能性を持っていると思うのです。

これからの時代、個人の原体験から生まれる内発的な動機やアイデアがとても大切な時代になると思われます。企業が利益のために生み出す商品と、個人が自分の快適さや幸福の為に生み出すもの、本質的消費の時代に自分の物語から生まれる本質的な消費やサービスの価値は今以上に求められる時代だと思います。

私のアート思考セミナーではそれぞれの物語を作るワークショップを行なっています。ある方法によって、人は驚くような独自の物語を生みます。全ての人がアーティストであると実感できるワークショップです。

それぞれの人が持つ、自分なりの物語こそ新しい価値を生み出す原動力になると感じています。

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