Joyful 感性を磨く本

「本書の目次にさらりと目を通しただけでは、価値の本質を見誤ってしまっていたかもしれない。しっかり読んでみて、よかった」

これが、私の本書に対する第一印象です。

正直に言えば、最初「この本は、ときどき見かける『幸せになるための○○つの方法』といった女性好みのハウ・トゥ本かしら」と、私自身が誤解していました。

でも、ひとつひとつの章を読み進めていくと、それは思い込みであったと気づきます。

本書は、人間の「喜び」や「しあわせ」というかたちのないもの – 感情 – が、かたちのあるもの – 物質世界 – から生み出されている事実から、物質世界が感情にどのような影響を与えるのか、なぜ特定のものごとが「喜び」の感情に火をつけるのかの結びつきを明らかにしています。

その結びつきを正確に理解することで、より多くの「喜び」を自らの人生にデザインしていくことができる。

身近にある「もの」への捉え方を見つめなおすプロセスを通して、アート思考のキーワードでもある「感性」や、眠っていた知覚が呼び覚まされていく、そんな一冊です。

自由、魔法、驚き、超越……自分を変える「10の扉」をさあ、開けよう──。自分の知られざる潜在能力を開花させる10の方法とは? 神経科学×心理学の最新の知見を網羅! 世界最高の創造集団IDEOのフェローによる、「最高の自分」を引き出す本! 20カ国で続々刊行、世界的ベストセラー!
(ダイヤモンド社ホームページより)

<目次>
はじめに
第1の扉:エネルギー──「パワーの源」を見つける
第2の扉:豊かさ──「たくさん」のもので囲む
第3の扉:自由──「野生」を呼び覚ます
第4の扉:調和──「美しい秩序」に気づく
第5の扉:遊び──「まじめ」から踏み出す
第6の扉:驚き──「日常」を打ち破る
第7の扉:超越──「高み」に目を向ける
第8の扉:魔法──「不思議」に心を開く
第9の扉:祝い──感情を「爆発」させる
第10の扉:新生──「新しい自分」になる

「喜び」は「もの」の質感や外観から引き起こされる

本書が「喜び」や「しあわせ」を語る書籍の類で珍しく、かつ非常におもしろいと私が思うのは、筆者が、人間が「喜び」を感じるものにはどんなものがあるかを研究し、その研究結果を「10の美学」に類型化していることです。

そして、各章にて「なぜ、それが人間の『喜び』につながっているのか」という根源的な問いを学術的にも考察し、明示していることにあると思います。

さて、ここで「10の美学」との表現から「これは、女性をターゲットにした美容系のハウ・トゥ本だろうか」と、再度、惑わされた方はいないでしょうか。

筆者も文章中で述べていますが、私たちは、国籍や性別を問わず、「美学」をやや軽薄なものと捉える文化的な傾向があるのかもしれません。

喜びの感情は謎めいてとらえどころがないが、その感情は実体的な物質的属性を通して呼び覚ますことができるのだと知った。具体的にいえば、喜びの感情を引き起こすのは、デザイナーがエステティクス(美学・美的存在)と呼ぶ、物体の外観や質感を定義する特性である。私は、このときまでずっと、美学を装飾的で、やや軽薄なものとさえみなしていた。(中略)誰もが、美学に注意を払っているが、気を使いすぎたり、外見に力を入れすぎたりするのは見苦しいと考えられていて、下手をすると「浅い」とか、「中身がない」などと思われかねない

『Joyful – 感性を磨く本 –』電子書籍版 71/5517

この一文から、「形から入る」という日本語が思い出されました。

「形から入る」は、物事にあらたに取り組む際に、その意義や内容よりも、外見や格好、活動自体を主眼において取り組み始めること。本質的な意義を蔑ろにして体裁を繕う、といった意味合いを込めて用いられる場合も多く、やはり「物体の外観や質感」に注力することを否定的に捉えているように感じます。

しかし本書は、「喜び」は物体の外観や質感を定義する特性(=美学)から引き起こされるとし、その根源的な理由を説明することで、私たちの中に潜む「美学」への先入観や、ものの見方を一変させてくれます。これは「あたりまえ」から抜け出す経験にも似ていると感じました。

「喜び」は、すでに自分の中にある

たとえば、「秩序」という言葉から、皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか。

私は、「秩序」に対し「自由」と正反対にあり、堅苦しく、静的で、おもしろくないといった、「喜び」とは、やや離れた印象を受けます。

一方で、同じパターンが整然と繰り返される幾何学文様、宝塚歌劇団の一糸乱れぬラインダンス、同じものが整然と並ぶ陳列棚を見ると「喜び」に似た感情が湧くのもまた事実です。

これについて、「第4の扉:調和」の章では、「秩序」が、私たちに「喜び」の感情をもたらす理由のひとつに、「生きるということは、表面的に現れるよりもずっと秩序だった取り組みだ」という著述家 ケヴィン・ケリーの言葉を引用します。

そして、脊椎動物が左右対称であること、心拍や脈拍、呼吸が秩序正しくあることが健康であることなどを例示しながら、秩序が「生命の力」を表していると結びつけます。


このように、「喜び」がものからも生まれると認識した上で日常生活を振り返ると、それらは、日々あたりまえに存在する、決して特別ではないものだと気づきます。

喜びにあふれる世界は、あなたの手の中にある。何かのメソッドを学ぶ必要もないし、規律正しい習慣もいらない。必要なのはあなたがいま持っているものだけ – 身のまわりの喜びを進んで発見しようという意欲さえあればいいのだ

『Joyful – 感性を磨く本 –』電子書籍版 105/5517


もっと自分の「喜び」の感情に、素直に、忠実になろう。頭で良し悪しを判断するのではなく、自分の「喜び」の感情を丁寧に見つめてみよう、本書を読み進めていくほどに、そう思えるようになります。

これは、自分の「偏愛」を大切することに似ているのかもしれません。

「自分の偏愛を探す」ことは難しくても、「自分の喜びの感情が動いたものを意識する」とすれば、より多くのものに気づくことかができるのではないでしょうか。


目まぐるしい日々を送る中で、指の間から抜け落ちてしまう「喜び」の感情。

この動きに意識的になり、また、それを自分のため、周りの仲間のために意図的に作り出せるようになること、この一連のプロセスを経て、私たちの感性は覚醒し、さらに磨かれていくのかもしれません。

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