自分へ関心が向けられるか
アート思考では、まずは自分が興味関心をあること、自分がワクワクすることが何かを意識するのか大事だという。
実際に表現をする動機は、自己の関心・価値・思想・美意識・社会的地位・影響力など、自分を意識することから始まる。
自分を客観的に観察し、自分のことを理解する試みがアート思考には必要なのである。
それには、意識を自分に向ける必要があり、自分が一体何者であるのかを探求したり、自分の感情の動きをメタ認知する必要がある。
この状態は、自ら何かを表現しようとする者には自然な状態であり、その深度の差こそあるかもしれないが、意識が向かう先は同じである。
しかし、本当にそうなのだが、この自分に意識を向けるという行動は、思った以上に難しいものなのである。
自分の本能的な欲求には簡単に気づくことができる。
お腹が空いた
眠たい
怖い
など。
また、わかりやすい感情である、基本6感情
「怒り・嫌悪・恐怖・喜び・悲しみ・驚き」
は自分に意識を向けなくとも気づくことができる。
しかし、自分に意識を向けるとは、そこに気づくことではない。
さらにその奥にある、その感情を引き起こした自分の思考の傾向や、そこにいたった体験などに気づくことであるが、そこに意識を向けるには、かなりの胆力が必要であり、自分と向き合うことを面倒だと思っている人の方が大半だろう。
実際、アート思考の実践講座では、自己と向き合うことから始めるのだが、この時点で脱落してしまう者もいる。
私的自己意識と公的自己意識
自分へ意識を向けると言っても、それは大きく二つに分かれる。
自分へ意識を向けることを「自己意識」という。
自己意識は、自己意識特性として、自覚状態とともに自己注目に包含される概念であるという。
つまり、自分のことを自覚し、自分に注目するかしないか、その傾向は、特性として個人差があるというになる。
そして、自己意識は、「私的自己意識」と「公的自己意識」に分けることができる。
私的自己意識は、自己に対する思考や内省のことであり、自分の感情、気分や動機などを意識することである。
公的自己意識は、自分自身の社会的なポジションや言動、外見など、他者から見た自分への意識のことである。
私的自己意識と公的自己意識の双方とも、自己のアイデンティティの確立には不可欠なものだが、アート思考における「自分へ意識を向ける」とは主に、私的自己意識のことを差す。
日本人の傾向として、公的自己意識の方が強い傾向があるという。
それは予想通りだろう。
公的自己意識が強いということは、他者が意識しやすい、自己の言動や、容姿、社会的な地位などに関心が高く、自己の行動の起因は、他者からの評価や社会的意識に基づく傾向があるという。
つまり、公的自己意識は、他者と接することで自己意識に気づく刺激を常にもらうことができる。
しかし、私的自己意識は、自分で気づこうとしない限り、そこに意識を集中することはできない。
アート思考にとっての自己意識
ビジネス界隈で、話題となっているアート思考の本のほとんどは、この私的自己意識が大切であると提唱している。
しかし、どの本を読んでも、私的自己意識を入手する方法はあまり書かれていない。
アート思考に馴染みがなく、トレンドとしてアート思考に興味を持ってくれた人たちに対して、そのあたりの説明は必要なのだろう。
アート思考は概念ではあるものの、行動でもある。
それを体感してもらわなければ、意識の高い人たちの特殊な思考ということで終わってしまうかも知れない。
アート思考がフレームワークになっていると言えば、定型のフレームワークは存在しないので、概念はわかるが、行動しようがないのであろう。
公的自己意識の方がより高い傾向の日本で、私的自己意識を強く持てと言われても、それに対して不可解な感情を抱いたり、断念してしまったりと、アート思考に対してネガティブな感情を持ってしまう恐れもある。
アート思考は、私的自己意識を持つことが目的ではなく、あくまでも何かを創り出すことを目的である。
そのトリガーは、自分の感情であり、関心事であり、ワクワクするようなモチベーションである。
この私的自己意識の形成をするのは、一朝一夕では出来ない。
多くのアーティストやクリエイターがやっているのが「ジャーナリング」である。
気づいたこと、思考に浮かび上がって来た感情やアイデアをカテゴリーの選別、感情の選別なしに、なんでもノートに書くことにより、言語化していく行動である。
要するに「日記」か、もしくはメモである。
また、自分が曖昧な状態の欲求を書き出すことも効果がある。
未来においてやれれば良いなと思っていることを、言語化し明確にすることである。
ウィッシュリストなどと言って、思考の整理をする際に行われているものである。
この方法で効果的ななのは、自分の感情や思考を素直に言語化することである。
誰にも見られることがなく、誰も自分の気持ちを知り得ることはないと思い、ひたすら自分の素直な気持ちを書くのみである。
それには、自分が素直になれるセーフティーゾーンを作っていくしかない。
公的には抜かりなく、配慮が出来て、気丈夫な人であっても、必ず怠惰な面や、優柔不断、臆病な面がある。
そこを自分の意識の表層に表出できる状態をどう作るかである。
この一般にネガティブな思考と言われている感情が、アート思考では何かを創り出すための大きなヒントになる可能性がある。
まずは、自分に意識を向けることを意識する・・・
そんなことがアート思考の始まりである。
※この記事は代表幹事の浅井由剛が執筆したNOTEの記事を転載したものです。
NOTEの記事はこちら
静岡県沼津市生まれ
武蔵美術大学 空間演出デザイン卒業
大学卒業後、3年間、世界各地で働きながらバックパッカー生活を送る。
放浪中に、多様な価値観に触れ、本格的にデザインの世界に入るきっかけとなる。
2008年株式会社カラーコード設立。
デザイン制作をするかたわら、ふつうの人のためのデザイン講座、企業研修の講師を務める。
現在は、京都芸術大学准教授として教鞭ととりつつ、アート思考を活かしたデザインコンサルティングをおこなう。