観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか

著者の佐渡島庸平さんといえば、大ヒットしたマンガ『ドラゴン桜』を発掘した株式会社コルクの代表。『宇宙兄弟』や『漫画 君たちはどう生きるか』なヒット作を多数出しています。帯のキメゼリフ「一流のクリエイターは世界をどう見ているのか」に再び♡をわしづかみ。「【目利き】ってなに?」という問いに追われて泥沼化する悶々の昨今に一筋の光明。「経営学者に経営できない」は有名な警句をもじって、「目利きできる人はそんな問いは立てないかも」とつぶやきつつ、「昭和のオジサン」のドキドキチャレンジ第七弾。

目次

はじめに
第1章 観察力とは何か?  観察をめぐる旅への誘い
第2章「仮説」を起点に観察サイクルを回せ 5つの具体的アクション
第3章 観察は、いかに歪むか 認知バイアス
第4章 見えないものまで観察する  感情類型と関係性
第5章 あいまいのすすめ  正解を手放し 判断を保留する
おわりに

著者とともに「観察」を追体験

不思議な本です。「あいまいなものをあいまいなままに伝える」という著者の試みが滲み出ています。

「自分という牢獄を出よう」

どきっとする帯のセリフ。浮かんでくるのはソクラテスの姿ですが、「そんなこと言っても、凡人の自分がどーやんの?」とつぶやいてしまいそう。そこで、牢獄を構成するモノを逆に武器として、佐渡島さんが実際にやってみている「観察」を、佐渡島さんがプロデュースしたヒット作品『宇宙兄弟』や『ドラゴン桜』などを素材に追体験してゆく旅路。

本書は書き手の佐渡島さんが実際に武器として活用している「観察」を、佐渡島さんと一緒にやってみる構成になっています。

「自分を「牢獄」としてではなく、「生命の奇跡の結果」と感じ、その身体を通じて、自分の心を観察し、世の中を観察する」

観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』p. 48より

自分の「メガネ」をhackする

“観察力は「かくかくしかじか」なもので、それは「○○」の修練を通じて身に付ける”という明確は方法論を説くというよりは、佐渡島さんが自ら武器として駆使する「観察」を通して、見ている景色を「一緒に見る」体験をしている、と感じました。
出発点は、自分のなかに不可避的に潜み、生きている限り付きまとう「メガネ」の自覚。逃れられない絶望感しか湧いてこない。

「人間はメガネをかけて世界を見ている」「人はメガネを絶対に外せない」

観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』p. 43より

常識とはあなたが18歳までに身に付けた偏見の塊である

観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』p. 30より

これにまずは慄(▲ルビ:おのの)きました。

しかし、「佐渡島さん」はそんなことではへこたれません。

牢獄を作る「メガネ」をhackして、「観察」の武器とするモノすごい価値転換をやってしまいます。

そこに「うぉ~」と感動しました。

バイアスは進化の過程で獲得されたものなので、否定するのではなくどう使うかが重要です。佐渡島さんは、自分がかけている「メガネ」がどのようなものかを理解することが、観察を促進すると説いています。

自分の中に湧くモノを「カッコ」に入れて対象化し、「カッコ」の中のものがなぜそのような現れ方で湧き上がるのか、自分をさまざまな検証にさらし、ありのまま認識する。そんな方法論は『ソクラテスの弁明』や西山圭太氏の『DXの思考法』(文芸春秋、2021年)」で見たデジタル化の精髄を連想します

観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』p. 221より

本の終盤、「あいまいさを受け入れる」「いること(≠すること)」「いまに集中すること」「目的を手放すこと」の合一に至るところ(『観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』p. 221)では、まるで禅の無分別の境地のよう。國分功一朗の説く「中動態」・禅でいう「無分別」とかと通底するんじゃないの?とか、0と1が併存すると聞く量子コンピュータの世界観もそんな感じなの?とか いろんな連想が湧き上がってきます。

そうか!

「アート思考」は、自分に中に巣食う「制約」を明らかにすることでそれを逆に武器と位置づけ直し、世界を新たに創り直しにいく、そんな思考なのか! 本書で明らかにされる佐渡島さんが駆使するさまざまな手立ては、「アート思考」が世界を認識する組立てと軌を一にするのか! 私はこのように捉えました。

人は自分自身を理解することなしには世界情況を変化させることに着手することはできません。もしあなたがそれを見るなら、そのとき即座にあなたの内部に、完全な革命がおこるのです

観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか』p. 238より

革命の足音が聞こえてきそうな一冊。

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