【アンドロイドは電気羊の絵を描くか】

アート思考セミナー受講生を中心に、一般の方も参加できるオンライントークセッションを毎月1回多彩なゲストを招き行っています。アート思考のアプローチとして、アーティストの内発的な創造力をビジネスイノベーションに活かすところから、外在する作品との対話からアートを内在化させ「自分だけの答え」を見つけるプロセスまで、そのアプローチは様々です。今回のトークセッションでは「AIとアート」をテーマに、アートとは何か?を考察してみました。

今回のゲストスピーカーはデジタルアートを世界で展開するウルトラテクノロジスト集団チームラボよりカタリストの椎谷さんでした。前半はテクノロジーとアートの関係について、AIのプログラムが描いた絵が世界で最も長い歴史を誇る美術品オークションハウス「クリスティーズ」で約4900万円で落札された件についてディスカッションをしました。

『AIのつくった作品を芸術と認めるか?』
多くの回答が「受け手がアートとすればアート」という回答でした。 

20年程前になりますが、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)所長の北野宏明さんにAIに心がもてるか?というテーマでインタビューしたことがあります。「AIには<死>という現象がない。死の概念が人間を定義する重要な要素である。ということからAIには心が持てない。ただし、心があると思うのは人間の自由であると、、、」という回答を頂きました。

日本のアニメに登場する鉄腕アトムや戦闘ロボットは人のために献身的に悪と戦ったり、のび太くんを助けるドラえもんの様に人間に友好的なロボットやAIが主人公になるケースが多いのに対し、欧米のロボットは反乱を起こしたり、それこそターミネーターの様に人間を滅ぼすストーリーが目立ちます。ここにも、日本人のメンタリティーとして、モノにも心が宿るという思想が反映されているのではないか、、と思うのです。至る所に存在する神々、いわゆる八百万の神です。縄文式土器に人型の造形があったり、自販機や湯沸かし器がしゃべるという発想は日本人特有の思考のようです。モノに魂が宿る、という思想からAIを開発すればきっとシンギュラリティーでAIが人の脅威になったりはしないでしょう。モノ(AI)にも心が宿ると思う気持ちは日本人の思考のどこかに常にあるのかもしれません。

話を戻しましょう、4900万円の値がついた、AIが描いた絵のプログラムを作ったのは19歳にしてスタンフォード大学の研究所に勤めるロビー・バラットです。この絵画は14世紀から20世紀に描かれた肖像画1万5000点のデータを機械学習させたAIジェネレーターから生まれました。また、彼はファッションブランドBalenciaga(バレンシアガ)のデザインを生成するAIプログラムや、ラッパーのカニエ・ウェスト(Kanye West)のラップを模倣するニューラルネットワーク も作ったりしています。

スウェーデンのファッションハウスのAcne Studiosは、ロビー・バラットと共同で制作した2020年秋冬コレクションを発表しました。バラットは「私はAIに精通しているだけで、ペイントやスケッチの方法がわからないので、少しバランスが取れていないように感じます。フランス国立美術学校エコール・デ・ボザールに入学してリアルなアートのタッチなどを学びたい」とインタビューで話していました。彼はAIでアーティストが自動的に排除される。。そんなことは起きない。AIはアーティストの味方になる。AIはアーティストの創造性を高めるものだと言います。彼の様なアートとテクノロジーのハイブリッドな人がどんどん増えてきてほしいですね。
テクノロジーとの対比から人間の本質とその表現(=アート)とは何か?について思考することは、様々なものがテクノロジーの進歩によって人間の代行をする社会で、とても大切な事だと思います。

後半のチームラボ椎谷さんとのトークセッションも様々な気づきを与えてくれました。

●「創造的なヒトは寄り道する。そして、忘れる。」
 
クリエイティブな人は過去への執着や過去の記憶が保存できないという共通する性質がある様です。それはきっとワクワクする未来や自分から湧き出る見たことのない作品への衝動の方が強くていちいち過去の作品や失敗にこだわっている暇がないのではないか。
直線的に「正解」を出すのはAIに任せて、僕らは自由に寄り道をして未来を楽しくすればいい!チームラボは反省しないそうです。とにかく次を生み出すことを考える時間の方が大切だと言っていました。

●「物にお金を払う時代は終わった。ソーシャルアートは芸術の価値を権威ではなく共感の連鎖で作る」
 アートって難しい、、、そうなってしまったのは残念なことです。僕らはアートやデザインに囲まれて生きているのに、美術館とか敷居が高そう、ピカソのらくがききみたいな絵が何億円とか、意味わからない。程遠い感じがしてしまう。。。そんなイメージでアートに壁を作っている人多いと思います。目の前であなたの為に描いてもらった絵をその場で購入してみたらどうでしょう?きっと絵に対する新しい価値観が芽生えます。
そして、ここからが私たちが考えるソーシャルアートの考え方で、買った絵は持ち帰らず購入者の名前だけがブロックチェーン的に残っていく。つまり、1枚の絵をシェアして感動を共有するということです。
仮に1枚1万円だとしましょう。その絵が好きな人が1000人いたらその絵の価値は1000万円です。そして、1000人すべての人が所有者です。その価値は作品とシステムが動いている間は増殖し続けます。
これが椎谷さんと考えているソーシャルアートです。シエアリングエコノミーが普通になり、所有という概念が薄れたのを感じていると思います。音楽はデータ化が進み、パッケージ産業からサブスクリプションとなり、所有するものではなくなりました。今、iPhoneのハードディスクには音楽が入っていません。音楽を持ち歩きしているのではなくプレイリストを持ち歩いているのです。音楽を所有することは過去の概念になり、リアルな音楽はライブで体験する事に価値が移り変わっています。

生産と所有が優位の時代から、シェアリングエコノミーの時代に移行しつつある現代、権威によって認められた作品を投資目的で独占的に所有する価値観は過去のものになるのではないでしょうか?投資家にとっては価値のないものになって行くかもしれません。そして、アートの「好き」をみんなでシェアする時代がきてくれたらなーと思うのです。

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