入門編の本を読んでも、モヤモヤと霧がかかるオジサンチャレンジ第四弾。
昭和のおじさんには手に取りやすい「ハウツー」本風のタイトル。
「アートに触れたことない方向けの入門編』としてはかなりおススメ度高い!」というアマゾンのコメント欄。
これはもう、イクしかないでしょ。
親しみを持てる表紙。
筆者の三浦先生は、パープルヘアの小説家で、美学・形而上学を専門とする東京大学教授。
匿名でさまざまな芸術活動を行い、美術、音楽、文学の純粋芸術から映画、アニメ、格闘技、パラフィリアに至るまで、「アート」に関係するすべてを愛し、哲学的な視点で考察してきた「アートの哲人」です。
本書の内容
聞き手であるライターの郷さんと、三浦先生(+ときどき編集の人)とが、3時限/日×5日 計15回の絶妙の掛け合いを目くるめく展開して、「アート? なにそれ、おいしいの?」的疑問から出発、アートの深奥への道行きを探検していきます。
この出発点がまた味わい深い。
「アートって好きかといわれると、1ミリも興味がないし、知識もない」でも「ビジネス界隈で最近やたらと耳にする」。
郷さん、ホントですね、正直な出発点深く共感します。
あとがきで三浦先生が書かれている通り、インタビューする郷さん(たまに編集者さん)と哲人三浦先生のまさに「ボケとツッコミ」が役割を入れ替わりつつ、展開してゆきます。
目次
1日目 いま流行りの「アート」って何?
2日目 美術だけじゃない!アートの種類と価値はいろいろある
3日目 【教養としてのアート】アート史は進化論で学ぶと超面白い!
4日目 【刺激剤としてのアート】現代アートの魅力を教えてください!
5日目 【人生の本番としてのアート・前編】アート鑑賞のすすめ
最終日【人生の本番としてのアート・後編】全員がアーティストになる時代
アートは「ノーリスク」で、世界の見方をひっくり返せる「冒険」!
目から鱗の珠玉の言葉たち。
哲人三浦先生が導く「アート」ワールドの深奥。
気が付けば、アートの歴史、考え方、含意を垣間見る冒険家の道行き。
合間に、ちりばめられた珠玉の言葉たちに遭遇します。そのなかから特にインパクトを感じた10の言葉を紹介します。
アートへのチャレンジ。最初の一冊として珠玉の一冊!
- 「アートのみならず、宗教、歴史、哲学、政治、経済など文化一般の教養があることが大人として望ましい」
- 「人生の本番をどれだけ経験してきたかが人生の価値」
- 「アートの世界における美は権威ある人に定義づけられている」
- 「未知の価値を持っているかもしれないという価値」
- 「自分が触れたことがないものが世の中にはすごくたくさんあって、「それらをすべてひっくるめて社会」だと思えるかどうか」
- 「こり固まった枠組みから脱却する手がかりという意味でビジネスパーソンによってアート(特に現代アート)は価値が高い」
- 「アートの世界は「パラダイムの転換の歴史」」
- 「自分の世界観をどん欲に広げようとするマインド」
- 「実利的な関心から自由なので、アートにはリスクがない」「ノーリスクでできる冒険」
- 「アート体験は、完全に現実から切り離して、「自分の日常を対象化できる」ことが特徴」
日頃から感じる「アート」を語る言葉たちからにじみ出る「素人は寄るな」的空気には、筆者も違和感を覚えるところです。
それにしても、「はじめに」で聞き手の吐露「なんなんだ、アート」は本当に絶妙で、思い切り共感して、引き込まれました。
で、哲人、三浦先生のお話もホントにわかりやすくて、数あるアート関連本の最初に本書を手にできたら超ラッキー、と感じます。
後段では、アートの世界における「美」は権威ある人によって、解釈されて初めて価値が認められることが三浦先生から明らかにされています。
え、そーなの? だから、先述の違和感を覚えるんだ、と至極納得感。
ということは、アートにおける価値は「権威」によって支えられていて、でもその「権威」の既存の枠組み/パラダイムに挑戦して、根底から覆しにいく、なんとも矛盾と相克に満ちた世「バトル・ロワイヤル」が「アート」。
ただ、そこは現実から切り離されていて、実利的な観点では「ノーリスク」。
だとすると、これはもう、いくしかない!(と背中を押してもらえました)
「アート」的な思考回路で機能の自分を「脱皮」する冒険を仕掛けたら、仕掛けた分だけ、超お徳感です。
そーなんだ!と目から鱗。
入門への入り口として、珠玉の一冊かも、と思いました。
東京理科大学大学院教授(技術経営)。
組織や「ひと」の再生・自己革新シーンの存立構造、災害レジリエンスの社会的構築に関心大。「アート思考」の切り口に注目しています。1987年東大法学部卒、日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。シティバンク、産業再生機構を経て、独立。事業・組織の変革・再生シーン支援に従事。3.11では政府による東電デューデリジェンス、国会による原発事故調査(国会事故調)にプロマネ機能として参画。複数企業の役員、サイバーセキュリティベンチャー経営等を経て、2019年4月から現職。