第18回 カッコイイとはなんなのだ

日常的に使われているカッコイイ

デザインの打ち合わせの際に必ず出てくる「カッコイイ」や「センスがいい」という概念の本質はあまりにも不明瞭で、不明確である。

「カッコイイ」「カッコいい」「かっこいい」「かっこ良い」「格好良い」「恰好良い」など書き方もバラバラだが、それぞれに意味するものも微妙に違っている。

「カワイイ」と同様、「カッコイイ」もカタカナにすることにより、本来の意味を超えて、何らかの感情的な動きを表現し、コミュニケーションを取るための簡便な記号になっている。
基本的には異性を評価する言葉として機能している場合が多いが、ジェンダー的要素を超えて、すでに社会的に機能している言葉と言える。

音楽や美術作品について「カッコイイ」と表現する時もあれば、クルマやバイクなどの工業製品に「カッコイイ」と言う時もある。

「カッコイイ」と思ったものに関しては、手に入れたいという欲求を想起させることとなり、その「カッコイイ」を手に入れた者の手柄を讃えたり、妬むこともあり、社会的な関係性を作るきっかけともなる。

自分でも日常的に使う言葉だが、そう言っている自分が本当に「カッコイイ」という意味をわかって使っているかと問われれば、はなはだ自信がない。
おおよそ「カッコイイ」と表現する場合は、その対象を人間に例える、擬人化された場合に創出される言葉であろう。

日常的に、物事を捉え認識する場合に、あらゆる対象を擬人化し、そのラベルを「カッコイイ」かそうでないか。または「カワイイ」かそうでないかに貼って作業をしているようである。

カッコイイ人とは

物事を擬人化して認識することで、その対象となる行為や事象、モノ自体が身近になる。
では、擬人化のイメージである、そもそもの人間において、どのような人を「カッコイイ」と表現するのだろうか。

その「カッコイイ」と表現される人物像は、年代や文化、個人によって、かなりの差があり、なかなか共通点を見つけることはむずかしい。
代表的なカッコイイ男をピックアップしたとしても、かなりのバリエーションはあるだろう。

「カッコイイ」が男性的なジェンダー要素を含む言葉だとすると、「男らしい」と「カッコイイ」は共通する項目も多い。
「男らしさ」は現代社会で問題視されている「女性らしさ」と同等の問題であり、フェミニズムと相反する概念であるが、社会的には問題として取り上げられることは少ない。

その「男らしさ」の測定尺度を研究した結果が文化学園大学から出ている。
それによると「男らしさ」はいくつかの因子に分かれている
第一因子は「落ち着きがある」「協調性がある」「人望がある」「寛大である」などの“社会的望ましさ”因子
第二因子は「スタイルがよい」などの“見た目のよさ”
第三因子は「個性がある」「夢をもっている」などの“個性”因子
第四因子は「力持ちである」「豪快である」などの“豪快さ”因子
第五因子は「弱音をはかない」「愚痴らない」などの“精神的強さ”因子
から調査している。

ここでも年代や社会属性で「男らしさ」に差があることがわかる。
女性は、第一因子の“社会的望ましさ”に重点をおき、10代は第二因子の“見た目のよさ”因子を重視しているなどの結果が書いてある。

(現代日本社会における男らしさ測定尺度の作成 大石さおり・北方晴子 文化学園大学紀要 服装学 造形学研究 第44集)

カッコイイと感性

少なくともアート・デザインをする上で「カッコイイ」とは構成要素の一つである。
受け手に「カッコイイ」と思ってもらうことで、コミュニケーションの速度が瞬く間に短縮することも多い。
そして、情報を受け取ってもらいたい対象者を絞り込むことにも貢献している。

どんな状態を「カッコイイ」と判断するかは、年代や社会属性で異なるが、その「カッコイイ」を感覚的に捉え、自分ごととして変化させていくのは「感性」である。
「カッコイイ」という状態を感知するのが「感性」だとすると、「感性」がどのようなものかを把握していくことが必要だ。

そして、その「感性」は、研究対象になっているが、最終的には理解不可能なものであり、曖昧で定義が難しいという。

しかし、年代別や社会属性、そして個人で異なる感性だが、その中のどこかに共通性が見いだせる可能性があり、その共通性があるからこそ、アート的な感情を扇動させる行為が可能になる。

その可能性があり、そこに希望を見出すことができることは多くの人は認識している。
なので、アート思考的に考えるならば、内省力を高め、自分の感性を客観視し、自分の感情の動きをメタ認知する訓練する事で、「カッコイイ」を意図的に使っていくことができる。

カッコイイは便利な言葉ではあるが、何かを創り出すことを生業にしている者は、この「カッコイイ」をさらに分解して解釈する必要はある。

※この記事は代表幹事の浅井由剛が執筆したNOTEの記事を転載したものです。
NOTEの記事はこちら

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