「アート思考を実践する:中小企業などの事例」体験記

2020年12月5日、AHA Gallery Project が主催するZoomセミナー 「アート思考を実践する:中小企業などの事例」を受講しました。

ZOOMセミナーを主催したAHA Gallery Project は、「自分にとって特別な美術の発見と、若手美術作家による世界に一つだけの作品をつなげる」ことを目指して活動されている団体です。

また、AHA =はArt 【アートを身近に】、Heart 【心に響くつながりを】、Artist 【若手美術作家の輝きへ】の思いをこめた、Art Heart Artist の略称という事でした。

前回の「アーティストにも必要? オリジナリティを生み出すアート思考とは」に引き続き、同セミナー講師の浅井氏から、中小企業の事例について、講義して頂きました。

今回の 「アート思考を実践する:中小企業などの事例」では、他の講座で多い、理論先行型講座ではない内容でした。

特に、ラポール形成を構築する思考法であるという、明確なメッセージに繋がる実例と、対話方法を交えながら伝えて頂き、とても参考になりました。

講義内容

前回の「アーティストにも必要? オリジナリティを生み出すアート思考とは」のふり返りから入り、補足を行いながら、浅井氏が実際に携われた、中小企業事内での研修例を紹介。補足内容では、アーティストの観察手法の一例として、デッサンを取り上げ、また、スナッピング、コラージュ等の手法を取り入れた中小企業先での実践ワークを紹介。これまでの企業研修などでは行われないアート思考を使った実践ワークによるラポール形成方法の紹介がとても参考になりました。

セミナーの流れ

前回の振り返りから入った講義では、アート、芸術についての言葉の整理、歴史を振り返る事から始まりました。

次に、今回の講義では、アート思考のプロセスに重点をおき、最初にアーティストが行う「情報入力(インプット)」、「蓄積」、「出力(アウトプット)」方法から入り、「アート思考に必要なスキル」について、改めて詳細に解説して頂きました。

アーティストが最初に行う「情報入力(インプット)」に必要な、読書、体感、勉強、会話、観察、感覚(五感)では、「観察」に注目、次に「蓄積」では、外界から取り込んだ情報が、哲学、妄想、常識、思想となり、感情、意志、記憶、習慣となる事から、言葉の整理、歴史の振り返りの重要性を再確認しました。そうした情報の「蓄積」から「出力」される方法として、造形、演奏、会話、描画、パフォーマンス等があり、こうしたプロセスを経て、出力される事で「共鳴」に繋がるという解説を、改めて伝えて頂きました。

次に、浅井氏が、グラフィックデザイン業務で行ってきた、クライアント、デザイナー、顧客との関係性を説明しました。特に、クライアントに対して、デザイナーが行う対話(ヒアリング)では、クライアントの「心」の中にある「思い」、「理念」、「やりがい」、「生きがい」を聴く事が大切であり、デザイナーは、これまでの知識(思想、哲学、歴史、情報、技術(造形、技術、工芸、技法)を活かして「心」で問いかけ、また、顧客に対してもデザイナーは「気づき」「トレンド」、「仲間との共感」を与え、顧客の心の中にある欲求「達成感」、「生きがい」、「やりがい」「仲間づくり」に繋げる役割を担っている事についても、振り返りって行きました。ここでも改めて認識したのが、「心」の「観察」による「共感」でした。

その上で、前回の講義のキーワード「アート思考に必要なスキル」=「共感」を再度確認。また、デザイン思考の流れの確認では、下記の①~➄について、もう一度、詳細に振り返りを行っていただきました。

①共感(何に、誰に、共感するのか?感情のセンサーをつくる)

②問題定義(自ら発見するか、クライアントから与えられるか)

 ↓

③創造(テクノロジー、技術、職人技、伝統、歴史などを活用する)

 ↓

④プロトタイプ(発想を形にする、変換作業、共感覚の活用)

 ↓

テスト(試行錯誤と繰り返しの修正と発見、オリジナリティ)

上記の振り返りを行った後、改めて入力(インプット)」の「観察」を取り上げ、デッサンによる観察方法を詳細に説明していただきました。デッサンと言う情報入力方法では、観察→知覚→内的表象の構築→身体動作のイメージ形成→外化→外的表象の観察を行いながら、比較、計測、理想融合、表象の構成を行っている事を解説されました。

このお話しを振り返りながら改めて感じたのが、「デッサン」と同じ情報入力方法=「観察」では、ファッションデザインの業務に似ていることでした。また、ファッションデザイナーが行っている情報入力作業では、個人で行う作業が上記の①~②であり、デザイン画を起こすまでの作業となります。また、共創・協業して行う型紙、仮縫い、本生産作業が③~➄となる事から、浅井氏のお話しをお聴きした時、今は③から入っている自身の癖に気づきました。

次に、浅井氏が中小企業先様で行ってきた社内研修事例に入りました。その際、上記のデザイン思考の流れと共に「アート思考」に必要な①共感を養う際に使う手法として、下記の方法を挙げながら実際に社内研修でも活用された方法や、プロセスについて解説して頂きました。

A:「ジャーナリング」→一定の時間で、思った事を書く行為

B:「ザッピング」 →テレビのチャンネルなど、情報を回り見ながら観察する行為

C:「スナッピング」→スケッチや写真など気になった事を描く、又は、撮る行為

D:「コラージュ」 →台紙の上に紙や写真などを貼り付けて画像を構成する技法

上記のA~Dの方法では、

「心理的退行」、「自己表出」、「内面の意識化」、「自己表現と美意識の満足」、「非言語的要素」、「診断材料」、「ラポール形成」、「相互作用」、「コミュニケーションの媒介」に繋がるという事でした。

上記の方法を用いた中小企業社内研修では、地域産業に根付いた企業の現状を、社内で問題提議し、課題を共有していく研修として活用されたそうです。A~Dの手法では、階級、部署、性別問わず同じ作業を頂いた中、男性はどうしても照れくさいのか? どこかに、笑いを入れた答えや文字表現が多く、女性の方々の方が、社内の現状を「観察」され、コラージュなどを使った表現で、社内の抱えている問題点や現状=「地域産業」の有り方をしっかり認識され、最終のプレゼン発表でも、女性の方の発表内容は良かったというお話しがありました。

上記の中小企業社内研修の後のアンケートでは、以下の解答視座への気づきが返ってきたそうです。

  • 誰も賛同しなかった未来プロジェクトだったが、未来を考えるきっかけができた
  • 首長や上司からの指示ではなく、自ら町の在り方を考えるきっかけができた
  • 無いものに着目するのではなく、自分達の中にある資源に気づくことができた
感想

講義の最後に、「ラポール形成」に繋がるのが「アート思考」での捉え方、考え方でしょうか? という質問がありました。浅井氏は、質問者の方が自ら答えられるような心地よい導き方で肯定されていました。

私自身のこれまでの企業内での業務は、常にクライアントがいてこそ、①共感~②問題定義の作業が可能となり、次にチームとの③創造、④プロトタイプ、➄テストが可能であっただけに、現在は、①、②を共有できる存在がいない事で、③~➄から入ったプロトタイプでは、「共感」が得られないという大切な学びと、今の自身に必要な存在にも気づかせて頂いた、貴重な講義内容でした。

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