才能をひらく編集工学 世界の見方を変える10の思考法

本書は、編集工学研究所の事業統括として人材開発や組織理念開発などに従事されている安藤昭子氏が、「編集工学」をわかりやすく解説した本です。

編集工学とは、編集者・松岡正剛氏が生み出した、情報を扱う技法のこと。

本書の冒頭には、松岡氏の言葉で、

「情報を工学的な組み立てを借りながら編集すること、それが編集工学だ

『才能をひらく編集工学』p. 2

とあります。

なんだか奥が深くて難しそうですね。

では実際、編集工学とはどのようなもので、それを使って何ができるのでしょうか? 

私は、人から依頼されたり課題を解決したりするためではなく、「これを形にしたい」「これが好きだ」「こんなことが実現できたらいいのに」といった思いから始めることが、アート思考の考え方のひとつだと思っています。

本の編集もこれと同様で、企画を立てるときには誰かの思いから始まることが多くあります。

この本を手に取ったのもアート思考と編集に共通点があるのではと感じたからですが、編集工学は、「思いを形にする」を高度に実践に落とし込んだ技法ともいえるかもしれません。

<目次>
編集的自由の会得のために 松岡正剛
はじめに
第1章 編集工学とは?
第2章  世界と自分を結びなおすアプローチ
第3章 才能をひらく「編集思考」10のメソッド
第4章 編集工学研究所の仕事
第5章 世界はつながっている

「編集」という言葉の広さと可能性

広義で捉えると「編集」とは、本や映像を編集する作業にとどまらない、世の中のあらゆるコトやモノを、見て、探して、分類して、組み合わせる――つまり集めて編むことです。

これは特別な能力が必要なわけではありません。しかし、この編集の考え方を知り、それをあらゆる分野で活用することで、個人や組織の可能性は大きく広がると本書は説いています。

本書は、誰の中にも潜んでいる『編集力』を目覚めさせ、個人としての、あるいは集団としての才能を惜しみなく開放することを目指すものです

『才能をひらく編集工学』p. 5

具体的には、編集の考え方から生み出された、「10のアプローチ」と「10のメソッド」を中心に紹介しており、さまざまな観点から物事を捉える目を養っていきます。

すべてを通して読まなくても、興味のある箇所から読んでいくだけでも、そのエッセンスを味わうことができそうです。

「10のアプローチ」とは、本書の言葉を借りれば「わけるとわかる、わかるとかわる」(分節化)や「似たもの探し」(アナロジー)といった方法論のこと。

あるものを分類したり、一部を変えてみたり、要素を抽出してほかのものに転用したりといった、アイデア発想法ともいえるものです。

たとえば「わけるとわかる、わかるとかわる」というのは、情報を小分けにする発想のことです。

情報を小分けにすれば理解しやすくなりますし、何から手を付けていいかわからない膨大な作業も細かく分けることで具体的にやることが見えてきます。

また、分け方を変えれば、違うものが見えてきて、行動も変わってくるでしょう。

そして「10のメソッド」は、先に紹介したアプローチを実現するための具体的方法です。

本書では、「アテンションとフィルター」「連想ネットワーク」「アナロジカル・コミュニケーション」といった思考法が、手順や考え方を分解し、図解とともに解説されています。

ひとつひとつの密度が濃いですが、具体例やミニ演習なども掲載されていて、メソッドを自分のものとする工夫がなされています。

では、これらを自分のものとすることで何ができるのでしょうか? 

本書ではこのような目的が書かれています。

『編集』を『工学』することによって、あるいは『工学』を『編集』することをもってして、相互作用する複雑な世界の中で、人間に本来備わる力が生き生きと立ち上がっていくことを、『編集工学』は目指しています

『才能をひらく編集工学』p.23

本書では、この「人間に本来備わる力」のことを才能と呼んでいるのです。

100人いれば100通りの解がある

私には、「編集工学」とは、自分の内外のモノやコトを見る視点を変えること、つまりさまざまなやり方で物事を捉え直す試みではないかと感じました。

このようなアプローチをとることで、100人いれば100人が違った解にあたります。

私自身、書籍の編集に携わっていますが、編集とは「世の中」や「書き手」、「潜在的な読者」の思いを引き出して読者に届く形にすることであり、このプロセスはアート思考も通じるものがあると考えています。

しかし、誰もがわかりやすく強い思いを持っているわけではなく、それは外から見えなかったり、ときに本人も気づかなかったりすることもあります。

思いを形にするときには、あの手この手でそれを引き出すわけですが、そんなときに、さまざまな視点から物事を捉えることできれば、より気づきやすくなります。

編集工学には、ルーツ・エディティング・プロジェクトという手法があるそうです。

「自分たちが何者で、どこに向かおうとしているのか」を捉え直すために、組織や地域のルーツをたどり、未来を描いていくのです。

本書ではこのプロジェクトのことを

「らしさ」をたどり「ありたい未来を描く」

『才能をひらく編集工学』p.283

という言葉で説明しています。

これも象徴的なアプローチともいえるかもしれません。

跳躍した発想を身につけるために

この本で紹介されている「10のアプローチ」と「10のメソッド」のなかからひとつご紹介します。

それは「アブダクション」というアプローチです。

「アブダクション」とは、日本語では仮説的推論と呼ばれる、仮説をもって物事を推論する方法です。

アメリカの哲学者パースが提唱し、「演繹」「帰納」とともに第三の推論として近年注目を集めています。

私がここで「アブダクション」を取り上げたのは、身につけておくとビジネスにおいても創造においても、跳躍した発想がしやすくなるからです。

たとえば、ある現象を見て、なぜそうなっているのかの仮説をいくつも立てることで、それまで考えたことのなかった着想を得ることもあります。

「アブダクション」は、ある前提条件から、仮説を立てて未知の結論を導き出します。

これには、前提となるモノやコトを観察し、いかに発想を飛躍させて仮説を立てられるかがポイント。

たとえば、ニュートンが落ちる林檎を見て、「万有引力の法則」を導き出したのもアブダクションによるアプローチです。

科学者の推論などで使われることが多いアプローチですが、本書では、行き詰まったときのブレイクスルーがほしいときに有用だとしています。

では、自らが立てた仮説をどのように判断したらよいのでしょうか。本書ではこのように書かれています。

イメージの波紋が広がるかどうか

『才能をひらく編集工学』p.81

とてもシンプルですね。これをセルフチェックとして用いることで、良い仮説からはイメージの連鎖が起こるとしています。

誰でも生きていれば、自分なりの思考の型というものができてきます。

それが自分らしさにつながることもありますが、型にはまりすぎると行動や発想が偏りがちになります。

何かに行き詰まったときや迷ったとき。

いつも似たような発想になりがちだなと感じたとき。

「アブダクション」をはじめとする数々のアプローチやメソッドが俯瞰できる本書を読み返すことで、普段の思考の型から少しだけ外れた視点を手にすることができると思います。

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