え、DEAN & DELUCA?ですか?
ちょっと、おしゃれな感じのお店の、あの「DEAN & DELUCA」ですよね。
アート思考と関係あるんですか?
「お勧めです」
代表幹事の秋山さん、片山さんから、初歩編にチャレンジしてきたオジサンへのお言葉。
初の応用編。冒険第五弾です。
ニューヨーク発のグローサリーストアがなぜ文化も食の好みも異なる日本で受け入れられたのか。グローバルからローカルへ、どうブランドとして進化してきたのか。そのカギは、最先端の経営戦略でも、データをもとにした緻密なマーケティング戦略でもなく、「危機」と「失敗」の中にあったと言えます
『食卓の経営塾 DEAN & DELUCA 心に響くビジネスの育て方』p. 4
DEAN & DELUCAの日本での展開、試行錯誤が率直な語りでつづられ、そこから得た珠玉のことば。
思い返して気づいたのは、事業を成長させるヒントは日々の生活にあふれているということでした
『食卓の経営塾 DEAN & DELUCA 心に響くビジネスの育て方』p. 4
目次
はじめに
1. 哲学を共有する ──見るべきものは「根っこ」にある
COLUMN 1 京都で「店の力」を知る
2. ブランドの前に人がある ──価値をつくるのは看板ではない
COLUMN 2 問題だらけの卒業制作
3. 好きこそ仕事の上手なれ ──興味の熱量がすべてを決める
COLUMN 3 積み木の原点
4. 大は小を兼ねない ──「いい塩梅」を追求する
COLUMN 4 鳥の目、虫の目
5. 食卓の経営塾 ──感性を共鳴させる
COLUMN 5 かわいい子には旅をさせろ
おわりに
お礼の言葉
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「さらっ」と流し読むと、DEAN & DELUCAの発見と、日本での創業展開の歴史、その中で著者が発見してきた経営のキーワードが著者のお人柄が滲み出るような率直な語り方でつづられています。ただそれだけでも十分に楽しい。
でも、せっかくなので、これまで接してきたアート思考の初歩本を思い出しながら、眺め直してみると。おぉ、この著者の思考展開が「アートシンキング」なんだ、と、違った様相で文面が立ち上がってきます。
珠玉のシーンは、冒頭にある、著者の横川氏が日本でDEAN & DELUCAを展開し始めて、悩んでいたときにデルーカさんから言われた言葉です。
「きみの店にはソバはあるのかい?」
『食卓の経営塾 DEAN & DELUCA 心に響くビジネスの育て方』p. 33
「きみが参考にすべきは、僕の原点である、最初のチーズストアじゃないのか?」
『食卓の経営塾 DEAN & DELUCA 心に響くビジネスの育て方』p. 35
この言葉からDEAN & DELUCAの存在意義「本当にいいもの、おいしいものを世界中から選び抜き」「日本の都市文化に取り入れやすいようにローカル目線で【編集】して、想いを届ける」に到達する見事さ。著者が本当の意味で苦しんでいたからこそ、この感動のシーンがあるんだろうなと想像しました。
以降、哲学を具体化して「物事」の構造を「チーム」や「お客さま」と一緒に作り込んでゆくプロセスや発見の語りも展開されてゆきます。語りの合間に「PHILOSOPHY」という図が要約的に挿し込まれていて、日常にも「標語」としても使えそうです。
この本で私が注目したもうひとつの側面は、一世を風靡した「すかいらーく」の経営について、一般的な語りとはまったく異なる身近な人と目線で描かれていること。挿入されている写真に写る1号店のカッコよさは秀逸です。そして、創業者が息子に語る「電子レンジとオーブン」のたとえのお話。貴重な証言ともに深く共感しました。
私たちの生活には「アート」があふれているのかも?
アート思考の初歩本を数冊読みかじって、なんだかわかったような、そうはいっても、でも具体的にはなんだかよくわかんないよな……というのが正直なところ。
この本を読んでみて、そのうえで、お店を実際に再訪してみました。季節柄Xmasっぽい感じの店内は内装的にはシンプル。さまざまな横文字の「モノ」があふれる中には、ホントに「蕎麦」や「だし」などもあります。「ご飯のおとも」を見ていた女性たちから聞こえてきたのは「こんなのまであるんだ」「でも、これ、いいね」「なんか、おいしそう。食べてみたい♪」の声。
何気ないモノは、DEAN & DELUCAの人の「想い」に沿って、編集・陳列されて、「素敵でしょ」「おいしいんですよ」と語り出し、伝わるリアルな瞬間。お店のモットー「日常生活で感じた『なんかいいね』を追求する」って、追求する個々人の中の「軸」を日常生活に転がっているモノを編集して伝えることなのか、「アート思考」ってこういうことなのかなー。
そう思えば、「はじめに」に書かれている文章「事業を成長させるヒントは日々の生活にあふれている」が本当に味わい深く読み込むことができます。私たちの生活は「アート」にあふれているのかもしれませんね。
東京理科大学大学院教授(技術経営)。
組織や「ひと」の再生・自己革新シーンの存立構造、災害レジリエンスの社会的構築に関心大。「アート思考」の切り口に注目しています。1987年東大法学部卒、日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。シティバンク、産業再生機構を経て、独立。事業・組織の変革・再生シーン支援に従事。3.11では政府による東電デューデリジェンス、国会による原発事故調査(国会事故調)にプロマネ機能として参画。複数企業の役員、サイバーセキュリティベンチャー経営等を経て、2019年4月から現職。