「おじさん」チャレンジ第二弾は、日本の人事部HRアワード2018(書籍部門)最優秀賞、ビジネス書大賞2018準大賞受賞の大作。書評とかも高名な方が書かれたものがいっぱいあるので、湧き上がる今更感はさておいて、いざチャレンジ。
リーダーシップとか倫理とかを語る役回りには不可欠とお勧めいただいた先達へのレポートと位置付けて頑張ります。
目次
はじめに
忙しい読者のために
本書における「経営の美意識」の適用範囲
第1章 論理的・理性的な情報処理スキルの限界
第2章 巨大な「自己実現欲求の市場」の登場
第3章 システムの変化が早すぎる世界
第4章 脳科学と美意識
第5章 受験エリートと美意識
第6章 美のモノサシ
第7章 どう「美意識」を鍛えるか?
おわりに
縦横無尽に思索が展開、ジェットコースターの爽快感
章立てが良く練られていてロジックツリーがきちんとできているので、目次を眺めても「なるほど」と腹落ちします。読んでたいへんわかりやすいです。冒頭にサマリーとして「忙しい読者のために」があり、「(本文は)すべてこの短い回答に脚注に過ぎない」と言い切ります。文章ってこういう風につくるのですね。
ちりばめられた引用の出典の守備領域の広さに驚きます。デカルト、ジョブスイチロー、将棋の羽生九段、哲学書からアニメまで、まさに縦横無尽に思索が展開され、ジェットコースターの爽快感です。
第4章「脳科学と美意識」では、脳科学、美意識マインドフルネス、セルフアウェアネスが鮮やかに結合します。
評価軸を自分の中に取り戻そう
「様々な評価軸を他人任せにしている思考回路」(果ては自分の人生まで他人のせいにする)を目の当たりにするたびに「評価軸を自分の中に取り戻すこと」の大事さを痛感し自戒することが多くありましたが、鮮やかな切り口での整理をみました。
それぞれにとっての「美意識」については「自らの深奥=価値軸を問い続けること」とか「心の静謐」等様々な見解がありうると思います。内部化した「価値軸」を人類普遍的な「真・善・美」とすることができれば、それはまさにニーチェの「超人」への道の第一歩と考えます。
日本の「恥の文化」は矮小化された領域で矮小化した行動様式を帰結するように消極的にとらえるのが一般的です。著者は、内発的な倫理観や美意識に従うことの重要性を強調しつつも、ルース・ベネディクトの「菊と刀」を紹介し、「恥の文化」を同様に位置づけているのです。しかし、何を恥とするかの中核/基準として「真・善・美」を置くことができれば、それは実は「評価軸を自分の中に取り戻している」状態であり、自らを律する力を「神」等の外部に依存することすらなくなる可能性に思い至り、「目から鱗」体験でした。
東京理科大学大学院教授(技術経営)。
組織や「ひと」の再生・自己革新シーンの存立構造、災害レジリエンスの社会的構築に関心大。「アート思考」の切り口に注目しています。1987年東大法学部卒、日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。シティバンク、産業再生機構を経て、独立。事業・組織の変革・再生シーン支援に従事。3.11では政府による東電デューデリジェンス、国会による原発事故調査(国会事故調)にプロマネ機能として参画。複数企業の役員、サイバーセキュリティベンチャー経営等を経て、2019年4月から現職。