触覚は、脳のセンサーとして使われているものの1つだそうです。
野球選手の方々が、ボールを自在に操るために、指先の感覚を細かく磨く練習を積み重ね、ボールが自分の手から離れても自分の思い通りに動くようにコントロールしているそうです。
私が日常生活の中で触覚を鍛えることを意識しだしたのは、小学生のころに倣っていたピアノの先生からのアドバイスでした。
自分がイメージするような表現ができない。
先生がお手本で弾いてくれるような演奏にどうしてもならない。
できない…… と悩む私に先生がいった言葉は、「指の感覚を鍛えてみて。紙やすりを10種類くらい、違う番号を買ってきて、それで指の感覚を鍛えて。自分がイメージしている感覚がピアノの上で再現できるようになったら、あなたが求めている音が出るようになるから」
そこで、私は東急ハンズへ行き、おこずかいで紙やすりを9種類買いました。40番~800番まで、さまざまな種類の紙やすりがあって、驚いたことを覚えています。40番、100番、200番、300番、400番、500番、600番、700番、800番。全然違うのです。
紙やすりを触ってみる。
家の中にあるもの、道にあるもの、すべてを触ってみて、何番台の紙やすりに似ているか、手に覚えさせていく。
ピアノの練習をするときは、曲のフレーズがどんなイメージなのか、そのイメージにあうモノを思い出し、それが何番の紙やすりに似ているのかを思い出し、その手触り感をピアノで表現する。
そういう練習をしていくうちに、不思議なことに、音がどんどん自分のイメージに作り上げていくことができるようになりました。
先生は、いつも「行き詰ったら五感に戻る」といっていたのですが、触覚だけでなく、視覚・嗅覚・聴覚・味覚と、五感すべてを自分の中できちんとイメージできるようにすることで、身体のセンサーがアップして、自分が今なにを感じているのか。イメージしているものはどういうものなのか。それをアウトプットしたとき、どのくらい差があるのか。というのを敏感に察知できるようになっていきました。
この時の経験がヒントとなり、日常生活で、ちょっとした工夫をしています。
毎日の生活の中で、自分が触っているモノの感触やイメージを掴む練習を繰り返しています。
仕事で使っている鞄の中には、プロジェクト毎のノートが入っています。すべて同じサイズで同じメーカー、リヒトラブから出ているノートですが、表紙の色を変えています。
現在全部で9つのプロジェクトが進行していますが、すべて違う色をプロジェクトのイメージで用意しています。
たとえば、アート思考に関するものは、黄色のノート。黄色にしたのは、アート思考は、わくわく未来を創っていく思考プロセスなので、明るく暖かい色を感じるからです。
ビジネスの事業戦略を作っているクライアントさんのノートは紫色。これは、冷静の青と情熱の赤を混ぜた色で、10年後の成長戦略を作るには、パッションとロジックの両方が必要だと思ったからです。冷たい中にも熱いモノがある。そういうイメージです。
そして、これらのノートを、鞄の中から取り出す時に、鞄を見ず、手触りだけでとりだしています。暖かく感じるノート、冷たさと熱さを感じるノート……。表面の手触りは同じはずですが、色からくるイメージを持って触っているうちに、なんとなく、これは黄色だな、これは紫色だなという感覚が磨かれていき、正しいノートを取り出す確率があがっていきます。
このほかにも、形状や触った感触で、鞄の中にあるものを見ずに取り出すことをしています。手帳は、ノートよりも小さ目の、革のぬめっとした感覚でとりだします。
毎日、鞄の中にモノを入れるときに、「これはすべすべした感じ」「これはつるつるしている感じ」「これはぬめっとした感じ」など、入れながら、目をつぶって、そっとやさしくさわりながら、その感触を記憶したり、記憶しなおしたりしています。
ものをギュッと握るとわからなくなるので、そっとそっと優しく触るのがポイントです。時間があれば、目をかるくとじて、まず指先だけ。そして、そのあと手野平全体でいろいろなものを触って行き、その感触を記憶します。目をあけていると、視覚に惑わされるし、指先の感覚に集中できないので、目を閉じて行います。
毎日続けることで、指先と手全体の感覚が鍛えられていきますし、また、どんなものかを考えながら触るので、感触を表現する言葉が増えて行きます。
戦略・事業開発コンサルタント、声楽家、アート思考研究会代表幹事
イリノイ大学在学中に、世界初のウェブブラウザ―であるNCSA Mosaicプロジェクトに参加後、世界初の音楽ダウンロードサービスやインターネット映画広告サービス等の数多くの新規事業を立ち上げ、インターネット・エンジニアのキャリアを重ねる。ボストン・コンサルティング・グループの戦略コンサルタント、GE Internationalの戦略・事業開発本部長、日本IBMの事業開発部長を歴任。2012年に独立し、戦略・事業開発コンサルティングを行う会社Leonessaを設立。明治大学サービス創新研究所客員研究員。声楽家としても活躍し、TV朝日「題名のない音楽会」では「奇跡のハイヴォイス」と評される。国際芸術連盟専門家会員。
子どもの不登校をきっかけに、大学で心理学を学び、認定心理士、不登校支援カウンセラー、上級心理カウンセラー、Therapeutic Art Life Coachなどを取得、心のレジリエンスとアート思考の融合を模索中。
著書
- 『ミリオネーゼの仕事術【入門】』
- 『自由に働くための仕事のルール』
- 『自由に働くための出世のルール』
- 『考えながら走る』など多数。