色を抽象化し具体的に落とし込むスキル

COVID-19のパンデミックが起きる少し前から、当時4歳だった娘から、「骨の図鑑がどうしても欲しい」と言われていたのですが、なかなかいいものが見つからないまま、パンデミックを迎え、本屋さんから足が遠のいていました。

あっという間に半年が過ぎ、娘から「ママ忘れちゃってる!!お約束した!!どうしても今すぐ骨の図鑑が欲しい!」とごねられ、理学療法士の友人におススメの骨の図鑑を聞いたところ、紹介してもらった本がこちら!

まだ5歳の娘に与えるには、一瞬躊躇する3080円という金額の図鑑でしたが、私はこの色使いと、そして細部まで美しくカットされた人間の構造を学ぶには、3080円は高くないと思い、清水の舞台から飛び降りたのでした。

図鑑が届くと、娘は大喜び。

骨だけでなく、神経や血管の細かいところまで、丁寧にめくり、触りながら、「すごい~~ 色がキレイ~ とっても細かい!」といっていました。

色→イメージ(抽象化)→具体的に落とし込む

私は、目の前にある色で、彼女が何を感じたのか、尋ねてみました。

「ねぇねぇ、この表紙の色、すごくきれいって言ってるけど、どんなイメージが見える?」

すると娘は、「ラデュレを濃くした感じ。ラデュレのイメージ! パリっぽい!」と答えたのです。

余談ですが、ラデュレといえば、パリで最初のサロン・ド・テとなり、当時は男性の社交場だったカフェを女性の社交場として発展させた洋菓子店。ブランドコンセプトには、「洗練」「高品質」「女性」の3つがあると言われています。5歳の女の子にもそれがわかるようなブランド作りになっているのだなぁと感心しました。

バレエを習っている娘は、NHKで放送中のドラマ、『ファインド・ミー ~パリでタイムトラベル~』を私と一緒に見ていることもあり、パリのイメージを自分なりに持っているようです。

https://www.instagram.com/p/B0OaeLalI2B/

「パリってどんな感じ?」

質問すると、「バレリーナのお姉さんたちがいるような、かわいいけど、大人っぽい感じ!」と、さらに抽象度が上がった回答がありました。

「あなたがこの絵本が素敵って思うのは、パリっぽい色使いで、かわいいけれど大人っぽさが感じられるからなんだね!」とまとめてみました。

次の日、娘が折り紙やら厚紙やらを使って、ハンドバッグを作成していた時に、この本の表紙の色の組み合わせを試していました。

「この固い感じが折り紙じゃ出ないの」と紫の折り紙で苦戦しています。自分がイメージする紫の素材を探しに家の中を探索しはじめました。

彼女が何をしていたかというと、自分が学んだ「かわいいけど大人っぽいパリの色」を、身近なモノで表現しようとしていたのです。

色→イメージ(できるだけ抽象化する)→表現したい世界へ具体的に落とし込む

自分のイメージを表現する方法を模索していたのを見て、「この子は色の感覚をきちんと身につけていけるだろうなぁ」と感じたのでした。

実はこれは、私がイタリアへ留学した時に、留学先の先生から教わったテクニックなのです。

留学先のフィレンツェは、空の色が日本と違いました。
色は文化によって異なる

イタリアでマリア・カラス国際コンクールで入賞した先生に声楽のレッスンを受けているときに、「日本人が色の嗜好性の研究をしているのよ」と初めてお名前を聞いた齋藤 美穂先生。この方が「嗜好の3層構造モデル」を提唱されており、嗜好は3つの構造に分かれているそうです。

出典: ミツカン 水の文化センター(齋藤 美穂さんの考える「嗜好の3層構造モデル」)

この時はこの図では教えてもらわなかったのですが、今調べてみるとわかりやすいものがあったので、こちらも紹介します。

先生から、色の好みは時代・地域を超えた共通の好みが存在するだけでなく、固有の好みも存在する、世界中どこへ行っても青は好まれるけれども、青の色は微妙に違う。その違いをどうアーティストとして表現できるのか。それが表現力を磨く上で不可欠だと教わったのです。

そのためには、見た色を抽象化し、そしてそれをどうやったら表現できるのか、自分の持っているもの(私の場合は声)で表現してみるというのを繰り返していくことで身につけられると教わりました。

「自分がイメージできないものを、観客に見せることはできないの。だから自分の中にたくさんのイメージのストックを持っておくのが、アーティストとして大切なことなのよ」とも先生は言っていました。

ジョン・エヴァレット・ミレーの「オフィーリア」(パブリック・ドメイン

昔、コンクールでオフィーリアを歌った時の講評に、「あたなの声は確かに透明度が高い。でも、今回求められているのは芦ノ湖の透明さではなく、デンマークの川の透明さです。」と書かれていたことがあり、その時は、「水の透明度が国によってどう違うのか?」というのがわからず悩んだのですが、イタリアでその答えを見つけました。

国による色の違いは文化的・環境的なものも影響しているというのを教えてもらって以来、私の中で「見える景色・モノの色を抽象化し、具体化する」という作業を繰り返し、繰り返し行うことで、色への感度を高くしていったのでした。

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