音楽を聴いたり演奏したりすると、脳はリズム、音質、音程を処理するために、非常に多くの回路を使い、脳全体を活性化させます。
また、聴覚の部分だけでなく、運動能力、感情、創造性の分野も反応していることが、脳のCTスキャンでわかっています。
私はクラシック音楽やJ-POPが好きですが、小さな子どもがいることから、童謡をはじめ、子どもも歌も数多く聞く生活の中で、いろいろなジャンルの音楽を聴くと脳にさまざまな刺激があることを実感しています。
音楽を聞くメリットは、脳への刺激だけではありません。『Music and learning: Seven ways to use music in the classroom(ミュージック・アンド・ラーニング)』(クリス・ボイド・ブリュワー著)という本では、新しいコンセプトを学ぶときに音楽を流すと、情報がリズムや旋律に結び付けられて学習内容を思い出すきっかけとなると紹介しています。
また最近の研究では、適切な音楽を聞くことで、ストレスが軽減したり気分が変わったりするほか、認知能力が高まるとわかってきています。
私は、自分が耳にした音楽が心地よい、あるいは、耳障りだなと思ったら、分かる範囲で曲名をメモしておきます。
そして、なぜそう感じたのか、なるべくその日のうちに、できなければ1週間以内に、自分が「いい」「いや」と思ったときの感情を思い出し、理由を考えてみています。
自分がいいなと思う、あるいは、嫌だなと思うきっかけの1つに、音楽というツールを使っているのです。
また、自分の精神状態や目的に合わせて音楽を聴き分けることもしています。
毎日の生活の中で、心の状態は常に変化しているので、その時に合った音楽を聴くことで、音楽が心の状態をコントロールするサポートをしてくれます。
次に、私がどのような時にどのような音楽を聴いているのかを、少しご紹介します。
悲しいときには悲しい曲、たとえば、モーツァルトの「レクイエム」やサミュエル・バーバーの「弦楽のためのアダージョ」、ヘンリク・グレツキの交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」を聴きます。
落ち込んでいるときに明るい曲を聞いても精神的には癒されないそうです。
自分の気持ちと似たような状況にある曲を選ぶのが大切ということで、自分の感情の状態を自分で認識し、音楽を選ぶのがポイントです。
復讐心に燃えているときには「悪魔の音階」と呼ばれるDマイナーの曲、ベートーヴェンのピアノソナタ17番「テンペスト」やモーツァルトの歌劇『魔笛』の「夜の女王のアリア」などを聞いて自分の感情と向き合います。
集中して学習したいときには、バロック音楽が有効です。1分間に55~80ビートのスローテンポのものが、集中力を持続させるという研究結果が出ています。パッカベルのカノンをスローテンポでかけるのがおすすめです。本を読むときは、本を読み始める数分前から音楽を流し始め、本を読み終えた数分後に音楽のボリュームをどんどん下げていき、最後は消します。
物を書く、問題解決やゴール設定をする、プロジェクトワークやブレストなど、創造力が必要なときには、創造力を後押ししてくれる音楽を選びます。
たとえば、アメリカのピアニストでピアノ指導者のエリック・ドーブの「Pianoforte」シリーズや『ドン・キャンベルのモーツァルト効果2 創造力アップ』というオムニバスは、創造力を刺激すると言われています。この原稿を書いている今は、宇多田ヒカルの「初恋」を聞きながら書いていますが……。
運動をしたり、絶対やらなければいけないことに取り組んだりするときは、4ビートで速いテンポの曲を聴きます。私は『Hooked on Classics Part 1 & 2』というオムニバスをよく聴きます。これは、チャイコフスキーのピアノ協奏曲1番やリムスキー・コルサコフの「熊蜂の飛行など」のクラシック曲をディスコビートに乗せて繋げたものです。このシリーズの『Part 3』は、ムソルグスキーの組曲『展覧会の絵』の「プロムナード」やドヴォルザークの「ラルゴ」が収録されていて、こちらもオススメです。
朝やる気が起きないときは、リャプノフのエチュードを演奏しているハンガリーのピアニスト、ルイス・ケントナーの曲や、アメリカのヴァイオリニスト、デイヴィッド・ギャレットの『愛と狂気のヴァイオリニスト(GARRETT vs PAGANINI)』というCDをよく聴きます。クラシックなのにロックのような演奏なのが、心拍数を上げてモチベーションを高めてくれます。
こうして、どんな時にどんな音楽を聴くと、自分の気持ちにあうのか、自分の気持ちを他の気持ちへとスイッチしてくれるのかが分かると、自分で自分の気持ちの移り変わりに気づくようになります。
音楽を自分の感覚を磨くツールとして使ってみるのも1つの方法です。