【最初の新規事業:人型移動情報端末】

最初の新規事業
ここでは、私が手がけた新規事業の中のアート思考についてお話ししたいと思います。この動画は私が1997 年に最初に創作した新規事業「人型移動情報端末モバイルガール」です。

当時のインターネット普及率は約10%程度、私はインターネット放送局 A-sync というベンチャーで番組のプロデュサーを担当していました。ちなみに、YouTubeが日本語対応のサービスを始めたのは2007年なので、その10年近く前にインターネット動画配信サイトで企画をしてたことになります。

内発的動機と未来へのイメージ
当時の通信回線ではどう頑張っても動画とは言い難いコマ送りの状況でしたが、この先のインターネットは動画メディアになる!それはTVとは異なる民主的なメディアになるに違いない。この思想と未来へのイメージがプロジェクトに対する内発的な動機の源泉だったと思います。この思想はメディアアートの創始者ともいうべきナム・ジュン・パイクの影響もあります。彼は中央集権的な当時のTVメディアによる管理に警告を発する意味でビデオアート作品を作りはじめました。

私の内発的な動機のもう1つは父がTV局に勤めていた事です。
テレビメディアの全盛期にTV業界にいた父は、とても華やかな業界でありながら毎晩深夜にタクシーで帰宅し、家ではいつもイライラしていました。自分から見れば社畜としか見えなかったのですが、ある意味そんな父に対する対抗意識もあったのだと思います。私の中で中央集権的なメディアと家庭内での父の存在がオーバーラップし、テレビやマスコミの洗脳に対する嫌悪感が根底にあり、このキャラクターに投影していたのだと思います。そういった意味で私の中ではインターネト放送局の販促キャラクターではなく、紛れもない現代アートの作品でした。

インターネットの未来
今では当たり前のことですが、映画の予告編を配信したいと思い配給会社に行き提案すると、こんなコマ送りの映像メディアに動画を提供することはできない。とはっきり断られました。そこで、映画のプロモーションのために行うハリウッド俳優の来日記者会見をフル尺で配信する番組を「日経ネットナビ」とコラボで配信する企画をプロデュースしました。

そんな中、当時世界最小のWindows PC東芝「リブレット」が発売されます。
それを見た時、これはもしかしてモバイルで中継できるのでは?
と思いつきます。この発想と95年に劇場版が公開された「攻殻機動隊」が突然、頭の中で結びつきます。「攻殻機動隊」の話を知っている人ならご存知でしょう。草薙素子の最後の言葉「ネットは広大だわ」その後の草薙はどこに行ったのか?

https://youtu.be/cmXOr-QRq24

モバイルガールの物語
インターネットのどこかに草薙素子がいる、、、
もしも、草薙素子がニュースキャスターとなって復活したら、、
この物語(妄想)が私を突き動かします。続編をつくりたい!

なんの繋がりもない東芝に飛び込み営業してリブレットとCCDカメラ、さらには製作費の協賛を提案し、人型移動情報端末 通称モバイルガール MAI−50が誕生します。

日経モバイル モバイルガール特集より

彼女は電脳進化研究所で開発されたウェブロイド(身体は持たずネットを飛び回り情報を集積する)で、義体化するとモバイルガールとなって発現する。その目的は、来るべき人類滅亡の日まで人類の遺伝子を残すために全人類総体のデータベースNOAを構築する事である。情報収集の過程で情報操作された既存メディアに左右される事のないAIキャスターによる真実の報道で様々な事件の真相を暴いていく、、
一方で膨大なビッグデータを蓄えたNOAはテロ集団のハッキングを受け激しい情報戦争が繰り広げられる。この社会では情報を持つものが政治以上の権力を持ち社会を操作している。激しいハッキングと保守の戦いの末、最終的にNOAが自らの意思で起動しシンギュラリティが起き人類の終焉を計画しはじめる。

果たしてモバイルガールはこの時、人類の味方をするのか、、

このキャラクターから壮大な物語(妄想)が生まれました。その物語がインターネット放送局 A-sync看板企画となりました。

その後、モバイルガールはマサチューセッツ工科大学と文化服装学院による「ウエアラブル・シンポジウム」のゲストとして招かれたり、来日したクエンティン・タランティーノ監督にインタビューしたりもしたのですが、国民のたった10%程度しかインターネットにアクセスしていない時期にこのビジネスは当然早すぎました。数年後、インターネット放送局としての事業は経営的に行き詰まりプロジェクトは解体します。

私がAーsyncで見た妄想はたった今YouTubeや tiktokの中でリアルタイムに共有される映像情報の蓄積となっています。未来は30年後にやってきました。このプロジェクトが社会にどんな効果をもたらしたか?という事より、私自身が実現したい妄想を東芝さんや会社がサポートしてくれた事が素晴らしいということです。

こんなSFやアニメのオタクみたいな妄想を面白いと思ってもらえた事は自分がこの後経験する新規事業に対するモチベーションや自己肯定感の基礎になるものでした。少なからず、インターネットが動画情報化する未来の妄想(予想)は当たっていたことになります。この時の経験は、この後自分が関わるトヨタ自動車の動画配信や、地域活性動画などに生かされていきます。

私が人型移動情報端末で使ったアート思考は、社会思想(内発的動機)に裏付けられた今までにない未来に対する圧倒的な妄想と同時に、これを実現したいというパッションでした。この事業は失敗に終わりましたが、この経験がなければ後生まれる新規事業は生まれていなかったでしょう。また、このパッションを理解しサポートしてくれたスタッフや企業様のおかげで実点出来たことも重要です。未来へのビジョン(妄想)をに共有し補完し合う関係でなければ新規事業やイノベーションは起きないのです。

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