2020年1月に、本研究会の代表幹事のひとりである阪井和男先生と『アート思考はブームになったのか?――デザイン思考とアート思考の社会的受容――』という論文を書き、5月に発表しました。その論文のなかで、2019年8月からアート思考がデザイン思考を凌駕しつつある現状を検証し、アート思考がネットを中心にブームを引き起こしていることを論証しました。
具体的にどんな記事がネットを中心にブームを引き起こしているのか?
その内容を検証するために、代表幹事の片山淳さんとともに、2020年3月29日~2020年9月30日までの半年間、アート思考関連の記事やブログをピックアップし、紹介してきました。
今回はこの半年のプロジェクトを終了させるにあたり、アート思考関連の記事を半年間紹介してみて気づいたことをまとめます。
尚、今後はアート思考関連の記事を引き続き紹介していけるように、現在プロジェクトが進行中です。詳しいスケジュール等決まりましたらご案内いたします。
アート思考関連の記事数は増加傾向
2020年3月29日~9月30日までの半年間のアート思考関連の記事本数を図1で比較しました。
40週は、9月30日までしかデータを取得しておらず、1週間の57.14%のデータになります。
図2に示したように、4月は平均20本以下だったアート思考関連記事本数が、8月には、平均30本を超えるようになっています。
次に内容面での気づきを3つのポイントでご紹介します。
気づき① :日本のトップクラスの大学が、アート・アート思考をテーマに人材育成をはじめとしたプログラムをスタート
京都大学、早稲田大学、東工大など、美術・アート系の大学以外で、アートやアート思考をテーマとしたプログラムが続々ローンチしています。
- 凸版印刷と京都大学、アート思考による新手法開発で人財育成を支援
- 早稲田大学 自分だけの答えを見つける「アート思考」体験講座
- 東大とNTTデータが1月にアート思考によるイノベーション創出手法に関する研究プロジェクトを開始
- 東工大 ToTAL/OPENプログラム「対話型アート鑑賞(全2回)」
「ニューヨーク近代美術館で開発されたVisual Thinking Strategiesをベースとして、作品を見て気付いたこと、想像したことを自由に語り合うことにより、「創造的思考力」「観察力」「コミュニケーション力」を高めます。」
気づき②子ども向けの記事やプログラムも多数目にするようになった
STEAM教育の流れもあると思いますが、子ども向けのプログラムが次々とローンチされています。また、それに関連するような子育て中の人をターゲットにした記事も多数目にするようになりました。
一般向けのプログラムももちろん多数出てきているのですが、一般向けよりもターゲット層が狭い子供向けのサービスへ広がっていることに、 アート思考の広まりを感じました。
子ども向けプログラムの例
子ども向けサービスの例
子育て中の人をターゲットにした記事の例
気づき③ アート思考をテーマとするアイコニックな人たちが出てきた
アート思考関連の本の出版数が増え、末永幸歩さんの『13歳からのアート思考』はベストセラーになりました。『ハウ・トゥ アートシンキング』の若宮和男さん、『13歳からのアート思考』の末永幸歩さん などアート思考をテーマとした本の著者の方々が様々なところで情報発信をしており、その方々のインタビューも含めて、メディアでアート思考という言葉を目にすることが増えました。
おわりに
『アート思考はブームになったのか?――デザイン思考とアート思考の社会的受容――』では、2019年8月がメディアでのアート思考の取り上げられ方がブームの始まりとなったと分析しましたが、それから1年経って、ネットを中心にアート思考というキーワードは広がりつつあるように見えます。
とはいえ、デザイン思考とは異なり、アート思考はかっちりとした定義がなく、アート思考という言葉の使われ方も人によって異なっています。『アート思考はブームになったのか?――デザイン思考とアート思考の社会的受容――』でも指摘しましたが、アート思考の急激な興隆は、同時にアート思考という言葉が猛烈な勢いで消費され陳腐化する懸念もあります。
戦略・事業開発コンサルタント、声楽家、アート思考研究会代表幹事
イリノイ大学在学中に、世界初のウェブブラウザ―であるNCSA Mosaicプロジェクトに参加後、世界初の音楽ダウンロードサービスやインターネット映画広告サービス等の数多くの新規事業を立ち上げ、インターネット・エンジニアのキャリアを重ねる。ボストン・コンサルティング・グループの戦略コンサルタント、GE Internationalの戦略・事業開発本部長、日本IBMの事業開発部長を歴任。2012年に独立し、戦略・事業開発コンサルティングを行う会社Leonessaを設立。明治大学サービス創新研究所客員研究員。声楽家としても活躍し、TV朝日「題名のない音楽会」では「奇跡のハイヴォイス」と評される。国際芸術連盟専門家会員。
子どもの不登校をきっかけに、大学で心理学を学び、認定心理士、不登校支援カウンセラー、上級心理カウンセラー、Therapeutic Art Life Coachなどを取得、心のレジリエンスとアート思考の融合を模索中。
著書
- 『ミリオネーゼの仕事術【入門】』
- 『自由に働くための仕事のルール』
- 『自由に働くための出世のルール』
- 『考えながら走る』など多数。