アート思考に関わっていると、アート思考という言葉がインターネット上で頻繁に見かけるようになり、社会的なトレンドになっているように思えてしまうが、実際は、まだまだ関心をもたれていない。
時々、一般の社会人向け(東京特別区の職員・大手企業のビジネスマンなど)にデザインの研修などを行っているが、デザイン思考やアート思考という言葉を聞いたことあるという質問をすると、手を挙げる人は30人中2〜3人なので、おおよそ1割以下だ。
さらにこのアート思考に関心を持ってもらたいと思う。
一般的にはまだまだレアなコンテンツだが、このアート思考に対して、強く関心を持っている人たちが集まって作ったのが、私が代表幹事の一人を務める「アート思考研究会」である。
このアート思考研究会の目的は
「ゼロから一を生み出すアーティストの思考プロセスをヒントに、自分起点で、未来・社会の視点を持ったシリアル・イノベーションを生みだす人づくりに貢献するために、アート思考に関する情報を発信し、コラボレーションが生まれる環境を提供しながら、アート思考について学べる場を共有します。」
としている。
シリアル・イノベーションとは、複数回のイノベーションのこという。
イノベーションは、一人で成し遂げられるものではないが、きっかけはたった一人の思いつきだったりする。
その思いつき(アイデア)を発想しやすい体質になれば、シリアル・イノベーターになれる可能性はある。
その体質というのは、常々、作品をつくるために情報を集め、自分をみつめ、何を創り出し、社会に対してどのような気づきを与えることができるのかと考えているアーティストと同じである。
そのアーティストと同じように考える力をアート思考研究会では、4つの力として設定している。
その力は次の通り
1:内省力
2:探求力
3:洞察力
4:構想力
この4つの力は、一人の人間の中で、創作をアウトプットするまでの内側の力である。
4つの力はそれぞれ独立して存在している訳ではない。相互に作用して、存在している。
あえて名前をつけているが、各力と力の間もグラデーションになっている。
また、アウトプットするための、造形力や技術力は別の力として設定している。
内省力
これは、おもに自分の感情を見つめる作業が中心になる。
非言語な感情の部分を言語化できる力である。
自分を深く見つめることが必要であり、哲学的な問いを立てるのもこの力であり、いわゆるアート思考はこの部分の動きをもっと活性化させ、自由に発想したり、自分がどう感じているかを観察しようという主張の論説は、おもにこの内省力について説明している場合が多い。
しかし、自分を深く見つめるには、その他の3つの力もなければ、深く自分を見つめることが出来ない。
探求力
これは主に知識を探し出し、吸収する力のことである。
様々な主張も、発表した瞬間に過去のものになってしまう。
過去には人類が生きてきただけの膨大な量の知識がある。
先行して発表された論文や各ジャンルのカルチャーヒストリーを学ぶことも含めて、この過去への探求力は、知識の深掘りする力である。
また、自分のことを掘り下げるにも自分のファミリーヒストリーへの探究心が自分を見つめるキーポイントとなる。
洞察力
今現在、そこで起こっていることを細部に渡り観測することができるかが、この洞察力になる。
非言語的なトレンドの方向性をキャッチする力や、エスノグラフィ的な観察力もこの洞察力になる。
世の中すべてに渡り、観察することは不可能なので、自分の興味関心がどこにあるのかを理解することにより、フォーカスする事象を選択することができる。
ただし、ここで選択しすぎては情報が大きく偏り、バイアスがかかった情報しか入手できなくなるので注意が必要である。
構想力
未来に対して自分がどのようなアクションを起こしていくのか、そして、アクションを起こした後の世界はどのように変化していくのか。
それを組み立てる力が構想力である。
妄想することも必要である。
内省力から浮かび上がってきた、自分の欲や興味関心に対して、どの様な行動を取れば自分の思い描く世界になるのかを想像する力でもある。
ただし、妄想だけでは他人を説得することが出来ない。
説得するには、未来に関する正しい知識も必要である。
故小松左京が立てた未来学とは、正しい知見から未来を予測しようという学問のひとつである。
その正しい知見から、どんな未来になるかを学ぶことも構想力をつける意味では必要なことである。
それぞれの力を測定することは不可能であり、そこを目的とはしていない。
それよりも、この4つの力が相互作用して、創造性につながっていると考えたい。
例えば、この4つ力がうまく作用していない状態は、最終的に未来を構築していく力につながらない。
2:探求力が強く、様々な知識を持っている人が過去の知見しかなければ、トレンドとは大きくかけ離れている可能性もある。
また、1:内省力が強くても、裏付けされた理論がなければ、なんとなくの違和感もなんの発展もない批判だけになってしまう。
3:洞察力が優れていても、トレンドには強いものの、論理的な思考がなく、自分自身の興味関心がなかれば、軽薄な情報になってしまう。
それぞれの4つの力はすぐに強化すには、まず自分の中にこの4つの力が存在することを意識してもらうしかないと思っている。
そして、そこからアウトプットするための技術を磨き、イノベーションにつなげてもらいたいと思う。
※この記事は代表幹事の浅井由剛が執筆したNOTEの記事を転載したものです。
NOTEの記事はこちら
静岡県沼津市生まれ
武蔵美術大学 空間演出デザイン卒業
大学卒業後、3年間、世界各地で働きながらバックパッカー生活を送る。
放浪中に、多様な価値観に触れ、本格的にデザインの世界に入るきっかけとなる。
2008年株式会社カラーコード設立。
デザイン制作をするかたわら、ふつうの人のためのデザイン講座、企業研修の講師を務める。
現在は、京都芸術大学准教授として教鞭ととりつつ、アート思考を活かしたデザインコンサルティングをおこなう。