前回、「心の感覚の磨き方(3)好きなこと・嫌いなことを100個書き出す」について書きましたが、研究会のFacebook Groupで、嫌いなことをレビューしながら、自分のバイアスについてもチェックしているというコメントをしたところ、もう少しそこについて知りたいというコメントをもらったので、今回は、「嫌いなことから自分のバイアスに気づく方法」をテーマにします。
なお、意思決定における無意識のバイアスについては、以前、日経ビジネスオンラインに「クリントン氏阻んだ女性発の「ガラスの天井」若年女性に嫌悪され、共感を得られなかった理由」という記事を寄稿したときに、SEEDSモデルという意思決定の際に起きるバイアスとその対策についてご紹介したので、ご興味のある方は、ぜひそちらの記事も参考にしてください。
バイアスの種類・数を知ろう
バイアスは、種類も数も非常に多く、信念形成、認知・選択・行動決定、記憶などの領域に分かれており、また、社会から個人まで様々なレベルであります。どんなバイアスがあるのかについては、この記事では書きませんが、Wikipediaの英語版に、認知バイアスの種類について詳しく書かれているので、ご興味を持った方は調べてみてください。
私がよく自分の中にあるバイアスとして気づくものは、以下です。
- スプリッティング
- フィルタリング
- 結論の飛躍(下で紹介するレッテル貼りはここに入ります)
- 文化的バイアス
- ユーモア効果
- 文脈効果
- 内集団バイアス
- 透明性の錯覚
- 同調バイアス
- ステレオタイプ
- クラスター錯覚
- フォーカス効果
- 正常性バイアス
- センメルヴェイス反射
- 確証バイアス
- 感情バイアス
- 感情移入ギャップ
… あげるとキリが無さそうなので、この辺でやめておきます。(笑)
どんなバイアスがあるかを知っておくと、自分の中にあるバイアスに気づきやすくなると思います。
嫌いから気づいた「レッテル貼り」のバイアス
私は、好きなこと・嫌いなことを100個書いた後、グルーピングをして、その意味を深堀りしています。その中でも、「ものすごく嫌い」と反射的に感じているものの中に、自分が持っているバイアスを見つけることが多かったことから、「嫌い」を書き出した後に、「嫌い」から、バイアスを探してみるというエクササイズをしています。
最近はほとんどないのですが、10年ほど前は、嫌いのリストの中に、人の名前がよく出てきていました。
Aさん、大嫌い。セクハラをしたから大嫌い。
秋山ゆかりのノートより(原文ママ)
Bさん、Cさん、Aさんのしたことをその場にいたのに止めに入らなかった。倫理観ない!嫌い!
書き出した直後は気づかなかったのですが、数日おいて見直すと、以下の疑問や思いがわいてきました。
Aさんの「セクハラ」は許しがたいとしても、Aさん個人を全部嫌う必要があるのか?
助けに入らなかったという理由だけで、BさんCさんまで嫌う必要があるのか?
そのときに私が嫌いだと感じたのは、助けに入らなかった=道徳観がないと思ったからなのですが、BさんもCさんも助けに入らなかった理由があるはずです。
パターン分けをするということは、過去、あるいは、その人の「一部分」を私という偏ったフィルターを通して行っていて、その人全体をみているわけではありません。一部分をみて、「〇〇さんは××だからダメ!」というレッテルを貼っていることになります。
こうして、レッテル貼りという自分の中のバイアスに気づけたことから、特に「嫌い」と強い感情を持つ場合に、自分の中にどんなバイアスがあるのだろうか?と、客観的にみる練習をはじめるようになったのです。
嫌いの中にバイアスはあるか?
上記のように、自分で書きだした嫌いのリストを見て、そこから何が見えてきますか? 自分の中にどんな疑問がわいてきますか? それを書きだしてみましょう。
そして、上記の事例のように、自分の中からわいてきた疑問に対して、「それはどんなバイアスなんだろう?」とバイアスを考えてみます。上の例は、「レッテル貼り」でした。レッテル貼りに対して有力な対策は、弁証法的行動療法の発案者であるマーシャ・リネハン博士が客観的な事実のみを抽出することを提唱しています。それを参考にして、「客観的な事実」と「自分の思い込み」を分けることで、レッテル貼りをすることが減らすようにしています。
バイアスをゼロにすることはできませんが、少なくとも、自分がどんなバイアスを持ちやすいのかは気づくことができます。自分なりのやり方を見つけて、自分の心の感覚を磨いていくことをおススメします。
戦略・事業開発コンサルタント、声楽家、アート思考研究会代表幹事
イリノイ大学在学中に、世界初のウェブブラウザ―であるNCSA Mosaicプロジェクトに参加後、世界初の音楽ダウンロードサービスやインターネット映画広告サービス等の数多くの新規事業を立ち上げ、インターネット・エンジニアのキャリアを重ねる。ボストン・コンサルティング・グループの戦略コンサルタント、GE Internationalの戦略・事業開発本部長、日本IBMの事業開発部長を歴任。2012年に独立し、戦略・事業開発コンサルティングを行う会社Leonessaを設立。明治大学サービス創新研究所客員研究員。声楽家としても活躍し、TV朝日「題名のない音楽会」では「奇跡のハイヴォイス」と評される。国際芸術連盟専門家会員。
子どもの不登校をきっかけに、大学で心理学を学び、認定心理士、不登校支援カウンセラー、上級心理カウンセラー、Therapeutic Art Life Coachなどを取得、心のレジリエンスとアート思考の融合を模索中。
著書
- 『ミリオネーゼの仕事術【入門】』
- 『自由に働くための仕事のルール』
- 『自由に働くための出世のルール』
- 『考えながら走る』など多数。