イノベーションの多くのものは、既存のものの掛け合わせです。
たとえば、ケニアでは、地方での医療体制が不十分で、住民は十分な治療が受けられず、また疫病の蔓延も問題となっていました。遊牧民も多く、移動して回る遊牧民に対して、適切な医療支援体制の構築も課題となっていました。そこで、ラクダを使った移動病院のサービスが1999年にスタート。しかし、移動病院には、医師だけでなく、機器や薬、ワクチンなども必要です。
そこで、「Art Center College of Design」の「Designmatters」やプリンストン大学の「Institute of Science and Technology of Materials」と協力し、太陽光で動く冷蔵庫をラクダに背負わせ移動させる方法を開発したのです。
ラクダも、太陽光発電も、冷蔵庫も、既存のものです。でも、それらを組み合わせることでイノベーションを起こしたのです。このラクダの話はイノベーションの事例としてよく使われますが、イノベーションは何も新しいものをゼロから作る必要はなく、既存のものを組み合わせることでできることも多いのです。
掛け算の練習で、生み出す力を鍛える
日経ビジネスオンラインで、孫 泰蔵さんが孫正義さんのやっていた3つの発明法について紹介しています。
要約すると、次のようなことを紹介しています。
1日1個、コンスタントに発明できる方法論を発明する
15分を5分づつにわけ、3つの発想法で発明
1)問題解決型発想法
困った、問題だと気付いたことを書きとめ、解決策を考える
2)逆転発想法
単語帳にランダムに名詞を書きこんでおく
パッと開いて単語を眺め、特性を逆転させる
例: 冷蔵庫 =「白い」「四角い」「大きい」「重い」「冷やす」
「黒い」「丸い」「小さい」「軽い」「温める」特徴を持たせたらどうなるか?3)複合連結法
単語帳2冊用意、現れた単語を組み合わせて新しいアイディアを考える
日経ビジネスオンライン「兄・正義が体系化した孫家秘伝のアイデア発想法」
時計×冷蔵庫=時計付冷蔵庫、冷蔵庫付時計
これはいける!というものが出るまで続ける
孫正義さんは、毎日練習していたのですから、すごいですね。
この話を読んだのは、2016年のことだったのですが、読んだ時に、「みんな似たようなことをやっているんだな」と思いました。
私が勤務していた当時のGE(2008年ごろ)の事業開発部で似たようなアイディア生成法が毎月行われていました。私たちは、事業開発のアイディア出しに、3つの領域で、できるだけ数多くアイディアを出してくるという作業がありました。
3つの領域とは…
- 現在の事業領域
- 現在のビジネスの隣接分野領域
- 全く新しい未来、5年後に成功する未来のビジネス領域
1人100個考えてくるのです。
もちろん、会社のビジョンと合う方向にプロジェクトは作らないといけないので、その部分の誓約はありますが、それ以外は自由に考えてきていいのです。
その中から、ビジネスモデルを書き、有望そうなものをプロジェクトとして残すのですが、まずは1人100個作ってくる。
100個。なかなかすぐにはできないので、行き詰る人も出てきます。私は、初回は48個で行き詰りました。半分も出せなかった……(涙)
行き詰ると、メンバー全員で「掛け算大会」をしました。
掛け算大会でやるのは、業界×GEの持つテクノロジー×今流行のテクノロジー・話題のビジネス です。この3つを掛け合わせることで、新しいビジネスを創れないか、全員で考えていくのです。
ルールはシンプル。
1人1アイディア、まわってきたらどんどん答える。
答えながら、ホワイトボードに、サービス名(仮称)、解決する課題、使えるGEのテクノロジー、ターゲット顧客名を書いていくのです。
あとで精査するので、このときは思いついたものをどんどん書いていく。
だいたい1つのお題で20-30個のアイディアが出てきますので、足りないアイディア数が出たら終わりにします。
1人100個のアイディアを出しても、すべてがプロジェクト化するわけではありません。
ここで大事なのは、「ビジネスになるアイディアを出す練習」です。
だから、どんなアイディアでもいいわけではなく、ラフでもいいからビジネスモデルを書いてみる。ビジネスモデルを書くと、「これは絶対ビジネスにならない」と思うものが出てきます。こうすることで、次回以降、同じパターンでビジネスになりそうもならないアイディアは避けるようになっていくので、必然的にアイディア出しの精度が上がっていくのです。
1人100個新しいアイディアを考えてくるという宿題が出ていると、気づくと日常生活でも「新しいアイディアはないか?」と考え続けているので、お風呂でもベッドでもトイレでも、思いついたことはどんどんメモしておく癖もつきました。
創造的な人のノート術についてはまた今度書きますが、創造的になるには「掛け算」が1つのテクニックです。ぜひ、やってみてください。
戦略・事業開発コンサルタント、声楽家、アート思考研究会代表幹事
イリノイ大学在学中に、世界初のウェブブラウザ―であるNCSA Mosaicプロジェクトに参加後、世界初の音楽ダウンロードサービスやインターネット映画広告サービス等の数多くの新規事業を立ち上げ、インターネット・エンジニアのキャリアを重ねる。ボストン・コンサルティング・グループの戦略コンサルタント、GE Internationalの戦略・事業開発本部長、日本IBMの事業開発部長を歴任。2012年に独立し、戦略・事業開発コンサルティングを行う会社Leonessaを設立。明治大学サービス創新研究所客員研究員。声楽家としても活躍し、TV朝日「題名のない音楽会」では「奇跡のハイヴォイス」と評される。国際芸術連盟専門家会員。
子どもの不登校をきっかけに、大学で心理学を学び、認定心理士、不登校支援カウンセラー、上級心理カウンセラー、Therapeutic Art Life Coachなどを取得、心のレジリエンスとアート思考の融合を模索中。
著書
- 『ミリオネーゼの仕事術【入門】』
- 『自由に働くための仕事のルール』
- 『自由に働くための出世のルール』
- 『考えながら走る』など多数。