現代アートをたのしむ 人生を豊かに変える5つの扉

著者のひとり、原田マハさんはアートを題材としたカルチャー・エッセイスト。映画化された小説もあり、普段読書をしない私も気になっていたお方。そんな彼女と水戸芸術館で社会と美術の役割を問い続けてきた高橋瑞木キュレーターによる対談形式の著作となれば、現代アートの解説書よりも、ふたりの感性や経験をより近くに感じられるのではないかと期待し本書に接近遭遇。

そもそも「本」というモノにまったく食指が動かない私に、大きく帯に書かれたリード文「わからないが面白いに変わる!」が目に留まり、半信半疑で手を伸ばしました。

思い返せば、海外在住時に「珍しいモノ見たさと単なる好奇心」で通学途中の公共美術館やギャラリーに毎週のように通ったものでしたが、当時若かりし頃の本音は「現代アートって奇をてらったその場限りの興味と話題の対象物」だったわけです。

にもかかわらず、今でも未知なる作品に出会うべくあの空間へ足を運ぶ魅力とは何なのか? 自分でも納得する解が欲しく、また並行して、美術の鑑賞法を知ることでアート思考への理解が深まることも期待しつつ、ページをめくり始めました。

<目次>
ドアを開くために―まえがきに代えて
第1のドア 現代アートって何?
第2のドア 現代アートの楽しみ方
第3のドア ふたりが選ぶ、いま知っておきたいアーティスト
第4のドア 美術館に行こう
第5のドア アートの旅は続くよ、どこまでも

現代アート作品は、見る者が一緒に見て考え、語る人がいて初めて完成する

著者は、とりわけアートの中でも現代アートは見る者への問いかけを多く含んでおり、「価値」や「存在意義」を一緒に考えて欲しいとのメッセージが形になっていると述べました。作品を見て接して考えたり、語ったりする人がいないと完成しないのだと。

たしかに作品を目の前にして、「これはなんだろう? 何が言いたいんだろう?」と立ち止まって考えさせられることが多々ありました。なるほど、作品が観る者を引き寄せ、それが「?」であったとしても、私の心を振り向かせたことは事実。それは目に見えないインタラクティブな関係があの空間に存在していたか、もしくはそんな関係を求めて美術館へ足を運んでいたのかもしれない。と、私なりに思い当たる解を発見することができました。

アート思考研究会代表幹事の秋山ゆかり氏、阪井和男氏による「アート思考プロセス」に、1.自分の感情を深堀りする、2.表現する、3.誰かと共鳴する、とあり、自分が経験したこのシーンに当てはめて考えてみました。

先に書きましたが、私はアート作品を鑑賞することで、自然と自分の内面にも意識が向かうことがあります。つまり、芸術鑑賞が自身の感情を深堀りするきっかけを与えてくれたのかもしれない、と感じました。

言い換えれば、アートを生み出す過程で用いる、特有の認知的活動の第一歩を、現代アート作品が私にもたらしてくれた、と自分なりに解釈してみました。

アート作品の中の「何か」が、自分の考え方や、意見を表出し代弁させる

著者のふたりは、一緒に美術鑑賞をしたあと、作品の感想から始まり、いつの間にかお互いの人生や悩みへと話が移っていることがよくあるそうです。これは今さっき見たばかりの現代アート作品の中の「何か」が、自分の考え方や、言いたくても言えなかったことを代弁し、心の中にモヤモヤとしていた考え方を形に代えて表出する魔法の力があるのではないでしょうか。

これはアーティストがアートを生み出す過程で用いる特有の認知的活動=アート思考プロセスの第二段階「表現する」の根源となる魔法の力なのではと考えました。

アート作品を見ることで、自分の内面を深堀りし(第一段階)、心の中に抱えている何かを表に出すことにつながります(第二段階)。そして、心の中に芽生えた何かは自分自身に勇気を与え、行動を起こすきっかけとなるでしょう。行動することはやがて、誰かの心にも火をつけるかもしれません。ここまで来ると、これはアート思考プロセスの第三段階「誰かと共鳴する」につながるのではないでしょうか。

つまり、アート作品を鑑賞すること自体が、アート思考のプロセスを引き起こすきっかけにもなり得るということです。

大袈裟かもしれませんが、これこそが現代アートが私を引きつけるもうひとつの魅力なのかと納得した気分になりました。

考え方や物事の見方をときにやさしく、ときに遠まわしに教えてくれる「友達」

そんな現代アートの存在と人との関係性について著者は例を用い「自分の容姿について悩んだり、家族や組織の中で自分の存在価値について悩む時、考え方をひとつ変えるだけで、解消されることがありませんか?」と問いかけ、「現代アートは、凝り固まった考え方をほぐし、違った視点からの物事の見方を、ときにやさしく、ときに遠まわしに教えてくれる」(『現代アートをたのしむ 人生を豊かに変える5つの扉』p. 283)と述べています。

そう言われてみると、なんだか現代アートとは「友達」に近い存在に感じてきました。

私のようにサラリーマンを長年続けていると、経験という名の「常識」に縛られて、目の前の課題に対して斬新な解決方法が見出せなってきます。こんな局面において、著者の言う思考法を取り入れたり、日頃から現代アートと接したりすることで、凝り固まった考え方をほぐし、さらには自分が持つアイデアや計画が関係者から共鳴されたらなんて素晴らしいんだろうと小さな目標を得ることができました。

対談形式のわかりやすい現代アート鑑賞ガイダンス~現代アートの扉を開けよう

本書は対談形式だったこともあり、ハードルの低い現代アートのガイダンスとして、私でもすんなりと読み終えることができました。わかりやすく、難しい予備知識も不要で軽々と読み進めるため、現代アート初心者に推薦できる書籍と言ってよいでしょう。

また、本書に並行して期待していた、アート鑑賞とアート思考とのつながりも私なりに見つけることができ、単なる鑑賞指南書を越えて、学びと発見を得た納得の一冊でした。

原田さんは、アート作品を「ドア」にたとえ、鑑賞する者を違う時代や場所へ誘い、自分からアプローチしていくとより身近な存在になると力説されました。

かつては単なる興味本位で美術館やギャラリーへ足を運んでいましたが、私がなぜゆえ現代アートに惹かれるのか? その解を本書から得られたことで、今後もあの空間へ新たなる作品との出会いを求め、より頻繁に足を運ぶようになりそうです。

まさに本書の帯に書いてあったように、「わからない」が「面白い」に変わればアート鑑賞も人生も楽しくなる。そんな前向きな気持ちを貰えた一冊でした。

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