本書で著者は、ファッションに関わる言語の意味合いは不明確ではっきりと定義されていないことに疑問を投げかけて、定義を明確にすることを論じています。
言葉の意味を理解することは、ファッションに限らず表現する者の意図を読むことや、自ら表現することの意味を明確にすることにも通じると私は思います。
個人的には、言語化とアート思考の繋がりを感じて興味深いと思いました。
〈目次〉
はじめに
第一章 ファッションデザインとは何か
第二章 スタイルと装飾
第三章 モダニズム再考
第四章 衣服と身体
おわりに
あとがき
ファッションとアート思考の関係
私は、アート思考とは自己表現を通して自分の想いを示すことだと考えています。
ファッションを学ぶことはそれを実践することができ、アート思考に通じると感じました。
「衣服には着用者の身分や所属を表示する機能がある」(『言葉と衣服』p.118)と述べられているように、ファッションは、自分がどう着飾り表現するかということを含めて、TPOを意識して自分のいる場所や相手によって自己を表現することです。
本書では、ファッションと自己表現の関係性を次のように述べています。
だが、違う服を着ると、私たちは存在として別のものになってしまう。なぜなら、私たちはアイデンティティ構築を衣服や服装に頼っているからだ
『言葉と衣服』p.150
どのようなファッションを選択するかにより、自分自身の見せ方が良い方向にも悪い方向にも変わってきます。ここでも、ファッションを学ぶことは、自己表現を通して自分の想いを示すことだとわかります。
言葉の意味を明確にすることが表現の幅を広げる
今回紹介する『言葉と衣服』においては、ファッションに関わるひとつひとつの言葉の意味を明確にして、それらの言葉を用いて表現の幅を広げていきます。
著者は、現在ファッションに関わる言葉がはっきりと定義されていないことに疑問を投げかけています。
本書では、言葉の意味を定義することで、言葉のひとつひとつが表すことを明確にしようとしています。言葉の意味を理解することで、私たちがファッションで何を表現しようとするのかがより浮き彫りになり、さらに新たな表現をする際の手助けになるとしているのです。
これは、ファッション以外においても同じでしょう。
言葉の意味を明確にして理解することは、自分の思いをしっかり伝えることにも通じます。
さらに、自分が言葉で何かを表現しようとする際にも、役立つと私は感じました。なぜなら、言葉をより咀嚼し、吟味できるようになることで、表現する手段が広がるからです。
著者は言語化することの重要性を次のように述べています。
「それゆえ、思想という行為のためには、あるいはコミュニケーションを成立させるためには、言葉を適切に作ることが必要となる」
『言葉と衣服』p.6
私たちが何かを表現しようとする際に、表現するために使うものの意義やそこに含まれるコンテキスト(文脈)がわからないと、意図とは違ったことを示すことになってしまいます。言葉が何を意味するのか、表現することでどんな影響が与えるのかがわかるからこそ、表現の手段として活用していくことができるのでしょう。
2016年1月にシティ・ユニバーシティ・ロンドンを卒業。2016年4月から5年間リコージャパンでICTソリューションの営業に従事。2021年5月から共同通信デジタルに転職。ヨーロッパの芸術作品(絵画、小説、映画など)が好きで、アーティストの作品を創り出していく考え方に興味を持ち、アート思考研究会に参加。2020年4月に第2期ディスカヴァー編集教室の卒業生となる。