デザイナーである著者太刀川英輔氏が、創造性というものについて初めて体系的に完全に解き明かした渾身の作品です。
創造について掘り下げる中で、それが生物の進化と似た側面を持つことに著者は気づきます。
そこから生命進化に関する世界の知見をベースに、生命が「創造性」を育んできた仕組みを解明していきます。
<目次>
はじめに
序 章 創造とは何か
第1章 進化と思考の構造
第2章 変異
第3章 適応
第4章 コンセプト
終 章 創造性の進化
おわりに
ぜひ手に取って
本書にはデジタル版もあると思いますが、ぜひ印刷・装丁された本を手に入れてご覧いただきたいと思います。
本書を手に取った瞬間から著者と出版社との想いが伝わってきます。
そして読後(読後ですよ)、その凝ったカバーをそっと外して現れたものをご覧ください。
その時、あなたの中に何が起きているのか味わってみてください。
本書は内容から装丁から、何重にも重なった体験ができます。
いったい、創造とは何なのか
著者は、20年に渡って創造性の本質を追求してきました。
著者が行き当たったのは、地球が40億年近くかけて実践してきた生命の進化の方程式でした。
本書では、それを次の2つに分けて体系的に解説しています:
- 変異(HOW)
- 適応(WHY)
上記のいずれが心に深く突き刺さるかは、実務で解を追い求めている真っ最中なのか、それとも解が手に入る背景を探索しているのかという、読者の立ち位置によって分かれるところだと思います。
創造性の発揮のHOW = 変異
本書ではまず、生命の試行錯誤「変異」の方法を、アイデア創出のHOWとして解き明かします。
生命の進化の事例をもとに得られた変異のパターンは、変量、擬態などをはじめに全部で9つあります。
これらが40億年にわたって培われてきた生命の智慧に基づいて体系化されている点がユニークです。
特に進化系統樹が末端において再び融合するといった領域越境への示唆がある点は、アイデアに飛躍をもたらす創出方法として参考になると思いました。
アーティスト、デザイナー、シリアルアントレプレナーなど創造的と言われる人たちが「それはどうやって思いついたのですか?」と問われたならば、まずこの9つの何かを組み合わせて使ったと説明することでしょう。
本書ではそれぞれの項目にワークが用意されていてすぐに実践可能です。
しかし本書の真骨頂は後半の「適応」の体系化にあります。
創造性の本質的構造WHY = 適応
本書では、「適応(WHY)」の体系について、前半の「変異」の倍のページ数を割いて語られています。
進化には「変異」で示される様々な試行錯誤が必要ですが、生き残るには条件があります。
それを見極める体系が「適応」です。
本書ではその物事の見方を「時空観学習」と呼び、解剖・系統・生態・予測の4つの視点を定義しています。
進化すなわち創造性はこの時空観学習の観点とその繰り返しによるトレーニングから生まれるのです。
これを推し進める非常に重要な態度について本書では以下のように記しています。
創造には本質的な構造があるか。それは答えのない問いだと言われるかもしれない。しかし私は、そこに構造があることを疑わない
『進化思考~生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」~』p. 276より
ア―ティスト・デザイナー・アントレプレナーなどがしていることは、比較的目に見える「変異」と見えにくい本質的な活動「適応」の組み合わせでした。
本書は「適応」の本質的構造が前述の4つの切り口による物事の学習にあると明らかにしました。
アーティストであり起業家でもある人、経営コンサルティングファームが買収したデザインコンサルティングファーム、戦略会議に参加要請されるデザイナー、などはおそらく「適応」の4つの切り口を使い、物事を独自の視点で見立てることのできる人材なのだろうと思います。
そしてこの能力は当人たちが無意識に発揮しており、これまで説明されることはなかったのです。
創造性とは情報編集能力
生命の進化は「変異」→「適応」の繰り返しで発生しました。
十分な個体数と40億年の時をかけて。
「進化思考」はこのサイクルを逆転させ、極めて効率の良い変異を起こさせようとしているのではないでしょうか。
つまりどのように変異することが適応の成功確率を高めるのかをまず考察してから、試行に入るということです。
人類がようやく手に入れた情報編集能力が40億年の進化の智慧をさらに進めたように見えます。
昨今、ひとつの仕事に縛られることなく、一見まったく異なる多彩なプロジェクトを同時に手掛ける人々が増えています。
それはあたかも進化系統樹を伸ばしつつ、枝と枝との間を飛び回って新結合していく生命の活動のようです。
そしてそれは「時空観学習」の目を持つ人にとってはとても自然なことなのかもしれません。
進化思考は、生命の進化、従来の創造活動の体系を解き明かすだけでなく、我々がこれから何を念頭に未来を切り拓いていけばよいのかという示唆をも与えてくれているようです。
皆が、このような観点から少しずつ進化をし始めたらと考えるだけでわくわくしませんか。
Creative Research™ Consultant
横河電機株式会社
ファームウエアエンジニアから始まり、SEや研究開発企画などを経て、徐々に商品開発フローの上位へ上位へと仕事を移し、現在はインハウスデザイン部門に勤務。
デプスインタビューなどでユーザを徹底的に知るための方法論を展開すると同時に、最も重要だと信じる”開発者の意志を汲みだす対話”にも重点を置くCreative Research™を提唱している。
あらゆる開発プロジェクトに横断的に関わるデザイン部門に身を置くことで、効果的にコミュニケーションを図り、哲学シンキング、デザイン思考、システム思考、LEGO® SERIOUS PLAY®などを駆使して、ユーザの心に共感し、開発者の想いに迫る。
“Act without authority”が信条。