7月からNUMAZU DESIGN CENTER主催で「VISION × DESIGN クリエイティブマインド講座」というアート・デザイン思考をベースにしたセミナーを行っている。
募集したのは0期生。
ほとんど実験に近い内容の講座なので0期生なのだが、これに興味を持って参加してくれた奇特な受講生の方たちは、 いい意味で全員変わり者である。
その受講生の中から「水瓶座の時代」という言葉が出て来た。
水瓶座とは「Aquarius:アクエリアス」である。
そこで、思い出したのは、1969年にブロードウェイで公開されたミュージカル「HAIR:ヘア」で歌われたフィフス・ディメンションズの「Aquarious〜Let The Sunshine In / 輝く星座」。
このミュージカルの「HAIR」は1979年に映画化されている。
ミュージカルは未観覧なので、私が知っているのは映画である。
その映画でも挿入歌として歌われている曲が「Aquarious〜Let The Sunshine In / 輝く星座」である。
ちなみに1969年のグラミー賞を受賞している。
主人公の青年クロードがオクラホマの田舎から、ベトナム戦争へ徴兵されて行く前に立ち寄ったニューヨークのセントラルパークで見かけたヒッピーたちの歌うパフォーマンスが、「Aquarious」だ。
まさにヒッピーカルチャー全盛期のアメリカでヒットした曲が、この「Aquarious〜Let The Sunshine In / 輝く星座」である。
そして、この水瓶座の時代とは、ヒッピーカルチャーと密接に関係し合い、大きな価値の変化を起こす思想をつくるきっかけとなる。
私自身、西洋占星術とはまったく縁がなく、浅学な知識だが、西洋占星術では、2000年ごとに時代が変わると言われている。
ヒッピーカルチャー全盛期の1970年前後は、魚座の時代であり「支配の時代」と言うそうである。
そして西暦2000年、21世紀になると水瓶座の時代になるという。
その時代は、「公平さ」や「改革」が強く求められるようになり、過去の習慣や常識が通用しなくなり、「個」が重視され、物質的なもよりも「個」と「個」のつながりが重視されるようになるという。
その新しい時代になる、来たる水瓶座の時代の到来を祝し、新しい時代の夜明けとなる1960年代に、その思想はトレンドになっていった。
そしてヒッピーカルチャーのベーシックな思想として受け入れられた。
これまでの権威的、キリスト教的な世界観による戦争や差別に辟易し、個の幸福と自己探求を最大の目的とする、このムーブメントを「ニューエイジ」という。
資本主義・キリスト教以外の価値観を探していたこのムーブメントは、LSDなどのドラッグ、インド哲学、禅、アート、ファッション、ロックを取りれながらたどり着いた先は、「個」の世界である精神的な世界観であった。
ニューエイジ思想は、精神的な意味合いが強く宗教改革に近いのだが、宗教変革ではなく、あくまでも文化的な運動として捉えらている。
それは、規律や中央集権的な組織性がある訳ではなく、ムーブメントの組織の結びつきは、あくまでも「個」の意思によるものである。
権威や権力はそこには介在していない。
ニューエイジにおいて、最大に尊重されるべきは、個人の変革(成長)である。
最終的には、人間と宇宙との一体化であり、自然との統合である。
そのためのコンテンツとして、キリスト教文化以外のインド哲学、東洋哲学、ヨガや座禅、などが導入されていった。
しかしながら、かなり婉曲した解釈をされ、本来の目的とは異なる形で取り込まれていったいう。
折しも、1968年にアポロ8号が初めて地球の写真を人類に公開したばかりであった。ここで、宇宙と一体化を目指す思想はさらに加速したと言われる。
このニューエイジ思想が世界的に広がっていったのは、当時の市民階層の下位であるヒッピーのみならず、裕福な家庭で、教育も年収も高い層が、この思想運動をファショナブルと捉え、生活に取り入れたことで、爆発的に世界中に広がっていくことになる。
セレブリティの間で、ヨガや瞑想が広まるのが、ちょうどこのヒッピーカルチャーの全盛期の頃である。
現在、トレンドとして関心の高い、ヨガやヒーリング、マインドフルネスなどは、このニューエイジ思想がきっかけなのである。
これだけではない。
この「個」の変革を自己の精神統制により可能とする考え方は、自己啓発のセミナーのベースとなる考え方、ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントとして、これも世界に広がっていくことになるという。
また、この自己の精神統制により、ポジティブに思考することで、莫大な資産を手に入れることができるネットワークビジネスも、このニューエイジ思想が基となっている。
さらにニューエイジ思想は、地球というGAIA生命体という概念も作っていく。
そして、「個」を中心に地球を取り巻きながら、「個」と「個」が直接コミュニケーションを取ることができる、World WIde Web(W.W.W)やインターネットシステムの構想が作られ、さらにパーソナルコンピューターという概念が生まれてくる。
アートが一定の表現手法のトレンド志向から離れ、その作品を見た時に感じる「個」の感覚や思いを重視することが始まったのも、このニューエイジ思想からである。
ヒッピーカルチャーは、ある意味、政府の手により破壊され、夢のうちに終わったという認識で捉えらえているが、その思想は、時が経つほどに生活の一部となり、自然な形で私たちの価値観を変えている。
半世紀を経た現代に、このカルチャーの思想は、形を変えて体現されているのであろう。
※この記事は代表幹事の浅井由剛が執筆したNOTEの記事を転載したものです。
NOTEの記事はこちら
静岡県沼津市生まれ
武蔵美術大学 空間演出デザイン卒業
大学卒業後、3年間、世界各地で働きながらバックパッカー生活を送る。
放浪中に、多様な価値観に触れ、本格的にデザインの世界に入るきっかけとなる。
2008年株式会社カラーコード設立。
デザイン制作をするかたわら、ふつうの人のためのデザイン講座、企業研修の講師を務める。
現在は、京都芸術大学准教授として教鞭ととりつつ、アート思考を活かしたデザインコンサルティングをおこなう。